グルメクラブ
3月5日(金)
昔から「勝男」とも書いて縁起の良い魚とされてきたのがカツオだ。英名は「ボニート」。ブラジル語でも同じく。つまりは「美男」でもある。
カツオというと有名な「目に青葉 山ホトトギス 初鰹」の句が思い出されるが、夏のカツオだってもちろん悪くない。脂もほどよく乗っていて特に血合いの部分はレバーに匹敵する栄養があって疲労回復、貧血の予防効果もあるとか。
リベルダーデで唯一の魚屋を営む三木宗三郎さんは「でも一番旨いのはハガツオだろうね。身がやわかかくて刺身が絶品」と話す。
カツオにはカツオ以外の仲間がいる。ヒラソウダ、マルソウダ、スマガツオ、ハガツオがそれだ。マナガツオなんてのも聞くがあれはイボダイの親戚ともいわれる。平べったく丸々しているためブラジルでの通称は「ゴルジーニャ」。西京焼き、照り焼きに最適の魚だが、三木さんは「焼くと多少パサつく感がある。汁気を多めに」と助言する。
カツオはなんといってもたたきに勝るものはなかろう。たれにポン酢醤油、薬味にあさつき、しその葉、しょうが、にんにくを用意する。魚は皮付きの身からさっと焼いて次に反対側に火を通すといい。身が白っぽくなってきたら氷水で冷やせば完成だ。
どこかで読んだ、ある古老の高知県人二世の昔話が印象に強く残っている。それはかつて自分の父親が日本酒「東麒麟」の瓶を包んでいた藁を用いてカツオを焼き、たたきを作ってくれたというものだった。いかにも古き良きコロニアの一場面である。
しかし藁を着た瓶の存在は初耳だったので製造元に聞けば一九五〇年頃からの一時期、確かにあったと。二本詰めケースが販売され瓶の保護用に藁が使われていたそうだ。
そんな藁で焼いた土佐の名物にはほのかなブラジルの風味がしたことであろう。いまでは残念ながら食べることの叶わない味だ。