グルメクラブ
3月19日(金)
「焼酎を飲むと鼻が赤くなります」と書いたのは作家の内田百閒だった。
清酒よりも焼酎は強い。成分の酒粕も荒い。だから「鼻赤の心配があることはやむ得ない」とした。
その焼酎が昨年、清酒の出荷量を抜いたそうだ。しかし日本に〃鼻赤現象〃がみられるかといえばそんなことはない。
新聞によれば「多様な飲み方ができる」ことが、焼酎人気を支える理由のひとつという。つまりロックやカクテルで飲む層が増えたのだ。
ひるがえってブラジルでもかつてはカシャッサで鼻を赤くしている人が巷にあふれていた。まっ、いまでもいるか……。
アルコール度数は三〇から四五度。サトウキビの絞り汁をそのまま発酵、蒸留したものがカシャッサである。単式蒸留器が使われるのが特徴で蒸留しきれない成分が生じてしまうところに長所と短所がある。雑身をかりに長所とすれば短所は酒質の重さである。
同じサトウキビからつくられるラムはどうだろう。
絞り汁を煮詰めて砂糖の結晶を取った後に残る糖蜜から製造される。ブラジルでもよくみかける銘柄「バカルディ」は軽いラムの代表格で糖蜜に加水し連続式蒸留機で蒸留された後、さらに水で薄められているのだ。
しかし、ラムのアルコール度数は最低とされる「バカルディ」でも四〇度。なかには七五・五度のまさに〃火酒〃もある。とはいっても、ラムの味わいははカシャッサと較べ全般的に丸みと透明感がある。
バーテンダーにとって「バカルディ」などのラムはカクテルに大変に使いやすい酒である。カシャッサが逆に使いにくいのはその雑味と重さのせいである。ラムを主体とするカクテルの種類が多い一方、カシャッサのカクテルが限られるのはそんな所以による。
前回当欄で紹介したカシャッサ「カナリーニャ」のアルコール度数はだが二十度しかない。この軽さがいま受けている。〃鼻赤〃カシャッサは肩身が狭い時代となった。
果実などを加えたリキュール酒への関心も高まりつつある。ブラジルのリキュール生産量はインドに次いで世界第二位。コーヒー、クワの実、ジャブチカバ、イチジク、トウモロコシとその種類も豊富だ。
これはカシャッサ入りではないが、海外への輸出が期待されるブラジル産リキュールといえばCia da Banana」(=写真)。バナナのリキュールである。一本三十レアル近い値段は高いか。
いやいや「叩き売り」ではない。「イエス・ノス・テーモス・リコール・デ・バナナ」と世間で胸張れば値段も張るのである。