グルメクラブ
4月2日(金)
首都第一コマンド(PCC)の構成員とみられる強盗三人組がサントス港の倉庫から干しダラ二千箱を奪って逃げたのは、三月二十一日未明の出来事だった。
十一日のパスコアを控え需要が見込まれるところを狙った犯罪組織による〃旬の事件〃に、心の底で不謹慎ながらニヤリとしてしまった。
計五十トン、被害総額は約五十三万レアルと見積もられ、盗まれたタラはブラジル人が最も消費する「Saithe」だった。
ノルウェーから送られてくるタラには四種ある。一番高価で品質の良いとされるのが「Cod/Gadus Morhua」。一般には「Port」の名称で知られるだろう。
くだんの「Saithe」は柔らかいが味に「芯」がある。身の色が多少黒っぽいのが特徴だ。ボリーニョ、スープなどに向いている。 「Port」に似て身が白いのが「Ling」で煮物や焼き物に最適と知る人はいう。そして「Zarbo」。これが一番値段が安い。カルド、ピロンといった料理によく使われている。
ノルウェー沖での収穫時期は三月から十月。それが塩漬けされブラジルに届くが、聖週間は消費が一段と高まる。PCCらしき一味が奪った品はサンパウロ市モッカ区の卸問屋に運ばれ市民の食卓に上る予定だった。
ブラジル―ノルウェー間の通商は一八四三年、およそ百六十年前から始まっている。これもタラのとりなす縁だといえる。ポルトガル王室が移転してしばらくし、多数の商人が相次いで来伯したのを契機に、伝統的にポルトガル人が好むタラが持ち運ばれるようになった経緯がある。
興味深いことに、ポルトガルではタラ料理でも赤ワインを合わせると聞いた。肉料理には赤ワイン、魚料理には白ワインという「型」にはまった発想をポルトガル人はしない、と続いた話には膝を打った。
そんないい加減さ、良くいえば細かいことにこだわらない大らかな態度がこの広大なブラジルに多民族の共存を可能とする基盤を作ったのだろう。
発言の主はポルトガルを代表する赤ワイン「Periquita」社の代表である。先月タルデ紙(十九日付)に掲載されたインタビュー。 「ポルトガルでは、いつもタラ料理には赤ワインですよ。例えばあの昔ながらの、卵とオリーブ、ジャガイモを入れてオーブン焼きした一品でもよくマッチするんです」
ブラジルで何よりも売れている舶来ワインが実はこの一本である。巷のスーパーから高級食材店まで、どこでも手に入る。芸能人では司会者のエベ・カマルゴ、歌手のファファ・デ・ベレンが「ファン」を公言している。
現行品の二〇〇〇年産から、従来のブドウ・カステロン種にアラゴネス種とトリカンデイラ種をそれぞれ七・五パーセントづつ混ぜ入れたそうだ。ついで瓶のモデルチェンジも図り、これまでのなで肩・ブルゴーニュタイプでなく、いかり肩・ボルドータイプへと百八十度の変身を遂げた。
「創業から百五十年以上の時がたち、現代にあわせる必要も生まれたわけです。結果、さらにやわらかく、香りにあふれ、果実実に富んだワインに仕上がりました」
欧州ではとりわけスイス、デンマーク、そしてノルウェーで人気が高い。
「個人的な予断なんですがスカンジナビアの料理、そうだね、トナカイの肉との相性がいいと思うんだ」
パスコアはキリストの復活を象徴する繁殖力旺盛なウサギ、生命の源である卵をシンボルとする。「復活」を祝う当日は、デザートに卵を用いた一品を、肉料理に羊を食べる習慣がある。
その羊料理の相手には、「Periquita」の赤でも悪くなさそうだ。トナカイに合うのだから、羊にもきっとイケル、というのは私見である。
タラにもちろん、羊にも良し? 新製品になったことも手伝って、近く在庫薄必至と思われるこのワイン。PCCの次なる標的はもしや……。いや、ざれごとに過ぎない。