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パブ『伯剌西爾』=パリデビューのカシャッサ

グルメクラブ

4月30日(金)

 いきなりパリでデビューするってどんな気持ちだろう。いや、酒の話なんだが、ファッションのように国内で一応の成功を収めた後、「本場」で勝負するなら分かる。しかしミナスの田舎からサンパウロ、リオも経ず一足飛びにパリへ飛んでしまったカシャッサってのが存在するのだ。
 生まれは三角ミナスのアラグアリ市そばの農場。九一年から細々と製造され地元の人々に愛されていたところ、やり手の「スカウトマン」によって見出され、投資につぐ投資で磨きをかけられた。いよいよ完成の段階で与えられた名前は「GRM」。味(Gosuto)、洗練された(Requintado)、そして世界的(Mundial)の略だった。
 企業戦略として鼻からブラジル市場など目になかったのだ。世界に通用するエレガントなカシャッサを、の一点で開発された商品である。二年前の十月、パリで開かれた欧州有数の規模を誇る食品見本市にて鮮烈デビューを飾ると、フランスは勿論、イタリア、中国、カリブ海諸国などの輸入業者から強い〃引き〃があり、いきなり世界の蒸留酒業界のトップスターへの階段を歩み始めた次第だ。
 いまやまさにカシャッサ界のジゼーレ・ビュントヘンか。世界に名を売ったことで当初の目的は達成、モデルのジゼーレ同様、今度は国内市場にも力を入れ始めている。凱旋帰国物はやはり強い、サンパウロの高級レストラン「ファザーノ」「エスプラナダ」といった超シックな場所で飲まれている。値段の相場は一杯二十レアル……。元田舎娘がよくぞここまでといった感じだ。
 薬草やシナモン、果実の香りが漂うのが特徴。熟成年数は二年とやや物足りなさもあるが、それを補う華やかさがある。オーク、ウムブラナ、ジェキチーバー・ローザの樽で仕込まれた絶世の美女、いや、カシャッサだ。高級ブランデーと見まがうボトルも祝祭気分を盛り上げてくれる。ヘミングウェーの言葉を思い出した。「もし君が若いときパリに住む幸運に巡り会えば、後の人生をどこで過ごそうとも、パリは君とともにある。なぜならパリは移動する祝祭だから」そして「パリは終わらない」と。多感な時期に〃花の都〃を知った君もまたそうなのかい、GRM?