グルメクラブ
4月30日(金)
―サウル・ガルヴァオン?
マネージャー氏との会話でその名前が出てくるまで、「ボイ1000」をややみくびっていた。
―ああ料理評論家の。えっ、この店の記事を書いたことがある?
ここはエスタード・デ・サンパウロ紙本社のそばだ。サウル氏が最近まで、タルデ紙のグルメ欄を担当していたのは知っている。近所だし、紹介していたとしても不思議ではない。だからといって「何か」特別なウリがあるような店には思われないのだ……。
だが次々と運ばれてくる肉を食べるうち、いや、そうでもないなと思った。悪くない。どの部分も旨いものを手堅く出してくる。暇のかかるコステラにしても絶妙な焼き加減。店に入るや目に飛び込んできた、サラダバーの貧弱さを嘆いた、わずか五分前の「おのれ」を忘れつつあった。
考えてみれば九七年創業ということは、もう七年も続いている。百軒がオープンしたとしたら、二年後には半分が休業に追い込まれるのがサンパウロのレストラン業界の現実だ。「何か」がなければとっくに姿を消しているはずなのだ。
シュラスカリアを名乗る以上、提供する肉料理が一定のレベルをクリアしていることは当然。次ぎに立地が成否の鍵を握るだろう。 近くを走るマルジナル・チエテにはシュラスカリアが集中するため一見激戦区のようだが、サンターナ、カーザ・ベルデ、リモン、フレゲジア・ド・オーなどの地域に住むか働く人たちにとっては「ボイ1000」に来る方がはるかに都合がいいという交通条件が幸いしている。
周辺はエスタドォンだけでなく大中小の工場・企業の集積地。場所柄を反映して昼の料金(一九・九〇レアル)が夜よりも五レアル高い。サンパウロにいま約五百軒のシュラスカリアがあるといわれるが、料金が「昼夜逆転」しているところも珍しいのではないか。 なによりこれでいくと、家族で夕餉を取りたい客にはうれしい値段設定だ。週末、日曜日も料金据え置きという。サラダは三十種、各種パスタを目の前で調理してくれることも考慮すれば決して高くない。
植物の垣根で周囲を囲んでいるため、ガラス張りの店内には緑の間から漏れる薄い日が差し込む。清涼感漂う感じが居心地いい。結婚式の二次会、誕生日会にも好評のようだ。
シンプルでリーズナブルなシュラスカリア―。第一印象にとらわれて、隠れた本質を見抜けなかったのは口惜しい。月並な反省の仕方になるが、サウル氏の爪の垢を煎じて飲みたい。