こんな会話の日々もあって、『大きな舞台で新しい仕事を見つけて、発展をめざしたい。出来ればお金ももっと稼いで、田舎で窮屈な暮らしをしている妹たちにも良い生活をさせたい』そう願っていた勝次に耳寄りなニュースが入ってきた。 『日本の大きな会社がブラジルに進出して近代製鉄所を建設する。その会社ではブラジルで大量の人を採用するが、その建 ...
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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(12)
杉田源吉家には四人の子供が残された。 父と一緒に家に居た正吉と勝次、それに幼くて知人の家に預けられて居たさと子とよし子である。 男の子二人は係員による事情聴取は受けたが、未成年なので無罪放免となり、女の子たちもそのまま自由に、となった。 『私達の国日本』のために、と信条を通した源吉の家族を支えようと、源吉夫婦に親しかった ...
続きを読む »実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(11)
「ゴーッ」 砂まじりの風が通りすぎて枯れ草が宙に舞った。乾いた太陽がギラギラと輝いた。 厳重に固めた軍警兵の包囲の輪がジリッとまたひとつせばめられた。こちらの呼びかけには何の応答もなく、しんと静まり返った家の中からは物音一つ聞こえない。 こんな状況に業をにやしたか、既に屋敷際の木柵にとりついた一群が一斉に撃ち出した。 バ ...
続きを読む »実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(10)
手堅く仕事を伸ばし、仲間内でも信頼の厚い川本が口を開いた。 「源さん、貴方の言うことはもっともだ。今までの積みあげをみんな奪ってしまって、非道を通してきた外人に今更頭をさげられないという貴方の気持ちは、痛いほど分かる。しかし、ここはブラジルなんだ。たとえどこの国籍を持って居ようと、この国に住んでいる以上、この国の規則に従い、こ ...
続きを読む »実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(9)
* * ――ここで説明をしておかねばならない。第二次世界大戦終了直後のブラジル日系コロニアは、通信の不自由だった事情もあって、絶対多数を占める日本の敗戦を認めないいわゆる『勝ち組』と、後には勢力を増したが当初はごく少数のインテリ連に限られた敗戦認識派、いわゆる『負け組』とに二分された。 勝ち組の中の過激派は、 ...
続きを読む »実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(8)
以前は気力にあふれて話をしたのに、めっきり口も重くなった。ただ、残された四人の子供たち、正吉、勝次、以下の二人の女の子に対する時だけは、その強い閉じられた顔に、昔どおりの明るい笑顔が浮かぶのだった。 大陸の夜は深々と更けて、平原の乾いた空気に寒さがひとしお身にしみた。広い耕地の中にポツンと建った源吉の家の中では粗末な木造りの ...
続きを読む »実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(7)
「父ちゃん、火だ」正吉が低く叫んだ。 「うーむ」子供の手を強く握り返しながら源吉はうめいた。 めぼしいものをあらかた奪い尽くしたあげく、誰かが火をつけたらしい。店の奥の方から黒い煙がもくもくと上がり、やがて黄色い炎の色がチラチラと見え出した。群集の興奮はその極みに達した。 もう何のためにこんな騒ぎをやっているのかも分からない ...
続きを読む »「拝啓、Aさんお元気ですか?」=ジアデマ 松村滋樹
ブラジル事情に詳しくて、いつも新聞や実業雑誌に投稿されていたAさん。街でお会いすると、いつも向こうから声を掛けて来られ「元気ですか」と挨拶される。私の人生の師であった。 停職となったジルマ大統領が属するPT(労働者党)はルーラ元大統領の人気で与党となったが、貧乏人の集まりの労働者党やその支持団体CUT(労働者組合ウニオン)が ...
続きを読む »ニッケイ俳壇(902)=星野瞳 選
アリアンサ 新津 稚鴎われに六句虚子入選句虚子祀る鹿鳴くや二人を娶り戻り来ず木いも擦る土人女乳房ゆすり上げ木いも擦る土人女丸太に掛け並び河波の飛沫とび来る青嵐ゴヤス野の空の広さよ星月夜 カンポスドジョルドン 鈴木 静林七夕や願いは手芸上達を道譜請弁当がかこむ大榾火一日燃ゆる山家囲炉裏の大榾火薪不足 ...
続きを読む »ニッケイ歌壇(519)=上妻博彦 選
サンパウロ 武地 志津軽量も気迫で乗り切る日馬富士巨体逸ノ城下(くだ)す上手投げ白鵬の手が顔面を被いたる瞬間豪栄道の腰砕け一瞬を松鳳山の変化にて又も不覚を取りし稀勢ノ里両手上げ怯える様の「勢」に白鵬忽(たちま)ち体勢崩れる日馬富士の優勝称え喜びを分かち合いたる人は今亡し「評」千代の富士が大相撲界で「ウルフ」 ...
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