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文芸

ニッケイ俳壇(898)=星野瞳 選

アリアンサ  新津稚鴎

土手すべり落ちしは太き穴まどい
棉摘み賃ピンガ呑むなと払いやる
曳いて来し蜘蛛置いて穴掘る地蜂
蟇を呑む蛇の口元蠅たかり
露寒し削がれし耳の又疼く
木菟鳴くや酒気なければ物不言ず

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(40)

「なんだって、青森かい」「あなた青森に行きましょう」「青森は、ちと遠いよ」 しかし千年は、「しかし、待てよ。ホテルに泊まるより良いかもね。そうだ青森にしよう。そうだ、まず東京に行こう」と考え直した。 横浜駅に行って、青森行きを駅員に尋ねた。「東京駅から夜行があります」と言う駅員。「それに決めた。ここまで来たら、野となれ山となれだ ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(39)

 二人が降りると、待ち受けていた一人がうやうやしく、「さあ、こちらへ。お荷物は事務所にお届けして置きますから」と、まるで5つ星ホテルでボーイさんから丁重に扱われているような歓迎を受けた。 エレベータで十二階の事務室へはいった所で、女性事務員が「どうぞ、こちらへ」と先導してくれ、応接室のドアをノックした。中から「どうぞ」との声。  ...

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香山栄一さんを偲んで=吉田 恭子

 7月3日午前11時にイビウーナの香山栄一さんがご逝去されたと、翌早朝、前園さんがメールで知らせてくださった。4月に香山さんとメールのやり取りをした際は、まだまだお元気だったのに・・・と、その後、ご連絡していなかったことが悔やまれた。  私が香山さんと知り合ったのは、ブラジルに来てまだ4ヶ月ほどで、パーディーニョに引っ越してきた ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(38)

第六章 さて、あれから二年半、千年君がピンチの日本へ夜逃げ、二年半まえの前述のお話に繋がる。 バリグ航空機に乗り込み、飛行機が水平飛行になった途端、「千年さん」と声掛けられて、度胆を抜かれた。須磨子さんに助けられて、千年君は五年が経っていた。 ところで話を中断しましたが、五年前の経緯に戻ります。さぁー、千年君どうする。飛行機は空 ...

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ニッケイ俳壇(897)=富重久子 選

サンパウロ  串間いつえ

みみづくや夜の長きを聞かずとも

【みみづくは梟と同属であるが、耳という毛角を持っているのでそう呼ばれる。
この句は木莵と漢字を使わず「みみづく」と詠んだことによって、耳のあるづくの姿が想像され一句が実に柔らかい感触を読者に与える。また冬はどうしてこんなに夜が長いのかと、人間に話すように詠み上げたところ、見事な省略の利いた秀句であった】

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(37)

 さもありなん。彼女は父親が有名な職人気質の庭園師で、名の知れた厳しい人。質素倹約を旨とした、誠に大和民族の誠心を子孫に残すのが趣味みたいな人物の頑固おやじ。子供たちにも厳しい人と噂があった。その家族の長女である。根性も座っていた。美人だが中小企業庁の公務員と聞いていた。 千年太郎の活動は、どうやら軌道に乗り、多忙な日が続いてい ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(36)

 千年くんは素直に「解かりました」というと、二人で支店長室に這入った。「支店長さん私は、ブラジル語が充分話せません。失礼があってはイケませんので、森沢さんに詳しく説明して頂きますがよろしいでしょうか」「おお解かった。森沢さん聞きましょうか」 森沢さんが流暢なブラジル語で話し始めたが、太郎君には森沢さんの説明は半分も解からなかった ...

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ニッケイ歌壇(516)=上妻博彦 選

アルトパラナ  白髭ちよ

楽しみが又一つ消えて行く吾が人生の日暮時かな
歌友も師も無き吾の歌の道日日の歩みを短歌に託し
テレビにて見とれる日本の桜花恋いつつ逝きし父母に見せたき
ひと度も訪日かなわず逝きし父在らばNHK視せましものを
いかばかり恋しかりしやふるさとを偲びつつ過ぎし八十路の父は
(右三首『祖国はるかに』より抄)
「評」八十六歳、その作者の親御に寄せる思いの旧作を三首、合同歌集より抄(筆者)。

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ニッケイ俳壇(896)=星野瞳 選

アリアンサ  新津稚鴎

月のぼる口一文字にひきむすび
のぼりたる月の笑顔となりにけり
のぼる月の大いなるかなゴヤスの野
母やさしかりし雑炊熱かりし
雑炊の香も囲炉裏火も母も亡し
とろろ汁重ね恙もなく米寿
【今日は百寿を迎えられた作者の米寿を迎えられた時の句である。次いで百寿の句を期待する】

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