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文芸

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(14)

 その間、千年さん、瞬き(まばたき)出来たかどうか、茫然としていた。姉の玲子さんが、後を追ってきた愛子さんと二人で、こちらに手を振って、家の方へ消えて行った。 この一瞬の出来事は、千年の生涯でも、忘れ難く脳裏に焼き付いた一事となった。母国の娘さん達に出来る技では無いと、この時ばかりは度肝を抜かれた。貴重な体験となった。 いやはや ...

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ニッケイ俳壇(891)=富重久子 選

   サンパウロ         田中美智子冬の旅詩情溢るるグラマード【グラマードはブラジルで最も南の町で、冬の旅は少し寒かったであろうと思われるが、それだけしみじみとした情趣に富む恵まれた良い旅ができるものである。私も二、三年前グラマードを旅したが、寒くて手袋やマフラーを買い求めた事が懐かしい。  旅吟として詩情豊かに詠まれて ...

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ニッケイ歌壇(513)=上妻博彦 選

      サンパウロ      水野 昌之亡国の汚職と不正にまみれたるジウマの政権崖っぷちに立つ土壇場なお強気の女大統領連立与党の三下り半受く大統領の休職議決の一瞬を国民待てり真夜中過ぎても贈収賄のすさまじかりし政界にとどめ刺すかに検察動く収賄で騒がれ果ては逮捕され道連れ増やす司法取引  「評」時事詠、国とは民、その代辯者達の ...

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ニッケイ俳壇(890)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎沈み行く月に妻恋鹿の鳴く横書きの文親しめず秋灯下生え広がり咲き広がりて秋桜引力に耐えて暮れゆくパイナかな除夜告げて我が家に古りし鳩時計   北海道・旭川市       両瀬 辰江これで終りと思わせて春の雪雲一つ無き空の画布鳥帰る薄ら氷を踏み蹴散らして登校児気がつけば流氷すでに去りしあと ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(13)

 楽しい時間は早いもの、何と午前様とあいなった。一同休ませて頂く事にした。新コチア青年二人はかなり「ご銘亭」。ベットに横になったかと思ったら、二人で高いびき。朝までぐっすり。パトロンの計らいで朝寝が出来た。 もう十一時である。岩下氏の子供から「昼食(アルモッサ)だよ」と声がかかった。ブラジルの農家の昼食は十一時頃が普通のようであ ...

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15年の歳月から漂う味わい=歌文集『赤いレトロな焙煎機』

本の表紙

 珈琲鑑定士という職業がまだ浸透していない時代、手探りで当地を渡り歩き、珈琲と共に歩んできた歳月を振り返った、玉川裕子さんの著書『赤いレトロな焙煎機 遥かなる南米大陸をめざして』(春風社、164頁、1620円)が4月15日、日本で出版された。 同書は短歌と散文を結びつけた歌文集。日常生活の中で、珈琲を味わうことの豊かさが随所に滲 ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(12)

 感慨深い、第一歩をまさにふみ出したのだ。ブラジルの原始林の真っただ中の、素朴な住まい。飾り気ない寝室だが、彼らが夢に向かって突進する居城なのであった。 ここが千年太郎、野口節男、二青年の雇い主(パトロン)、岩下与一氏宅である。 一九五七年頃、ブラジル政府は旧日本移民の素晴らしい業績と実直な働きに対して理解をしめし、戦後移民受け ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(11)

 いよいよ、千年(ちとせ)太郎君の名が出た。次いで野口節男君、二名はピエダーデ郡在住の岩下与一さんへと指名され、岩下氏は手を振っている。 千年君と野口君二人は、岩下氏の元へ深々と頭を下げて挨拶していた。そして外で待ち構えていた車の運転手さんに、岩下氏が「待たしたな。荷物を積みましょう」と声をかけた。後ろのドアから二人の荷物を積ん ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(10)

 まず出されたのはパンとコーヒー。コーヒーは正に本場であるから良しとしても、「パン」は余りにもかたい。それに「マンテーガ」なる乳製クリームと、「モルタンデ―ラ」を挟んだ「サンドイッチ」である。これがどうも、日本人には妙な味で口に入らない。匂いも強い。「これからブラジル生活には避けて通れぬ『トーマカフェ』(朝食)である」と聞かされ ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(9)

 午前七時になった。移民船ぶらじる丸最後の朝食となった。日本的な雰囲気はこれが最後か。あと一時間で新天地、ブラジルの国土に踏み出す事となる。 朝食後は、自分の身の回り品を下船に備えねばならぬ。昨夜の内に済ませてはおいた、手荷物すべてを持って看板に整列した。その頃、ウルグァイ、アルゼンチンに行かれる同船者との別れも。再会の機会が果 ...

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