さらに艦内放送でも「忘れ物のない様に慌てず、気を付けてゆっくりお願いします。アルゼンチン行きの方は、慌てないで自室でゆっくりお待ち下さい」と頻繁に流れていた。 それでも日本人は気が早い。昨夜から用意していた人もいたようだ。家族移民の人もおられる。何と忙しい事か。日野さん(日野さんは福岡県朝倉郡杷木町出身の呼び寄せ家族移民)も、 ...
続きを読む »文芸
自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(7)
侍従長役、やおらお立ちに成り、三名の侍従を従えて、先程ご登場の方角に退散なさいます。笹山部長は、侍従長殿退出後、海魚に(扮した)役者に囲まれて船員乗客から祝福をお受けに成られる。船長代理は航海許可証書を捧げながら、うやうやしく目上に戴き、船員および出演者と喜びあい、舞台から下がって行く。目出度し、目出度しで幕となった。 そのよ ...
続きを読む »読み聞かせ絵本が日本語に=「ワニと7わのアヒルのこ」
当地の児童向け書籍「セッテ・パチーニョス・ナ・ラゴア」が日本語訳され『ワニと7わのアヒルのこ』(3500円)として、昨年末から日本で発売されている。ワールドライブラリー発行、集英社インターナショナル編集。 同作は、ワニのバルナベと獲物となった7兄弟のアヒルによるやり取りを描く。様々な変装によってアヒルに近づき、残された一匹が食 ...
続きを読む »自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(6)
何の呼び出しか、太郎には解からない。怪訝そうな目つきでふさぎこんでいた。太平洋上の酒盛りの一件が祟って、なんとなく不安だった。 あの酒盛り事件以後、皆の見る目が太郎には眩しく不愉快な日々を送るしか手はなかった。大西洋は太平洋とは打って変わっていた。なーる程、大西洋、静かにて、日本の真冬とは大変わり、中南米特異の上天候が続いてい ...
続きを読む »自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(5)
誠にめでたく、神戸港より新造船「ぶらじる丸」一万五〇〇総トンの移民船は、昭和三十一年(一九五六年)十二月二日、海外移民(移住者)を乗せて神戸港から横浜港へ。ここで東日本移民組が合流。総勢一五〇〇、六〇〇名の移住者を乗せて、貨客船「ぶらじる丸」は南米各国に向かった。 真冬の太平洋へ――。いやはや、予想はしていたが、「ぶらじる丸」 ...
続きを読む »自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(4)
ある早春の昼下がり。春雨に桜の花も散り、緑の若葉が清々しいある日のことであった。父と母は田んぼ、祖父母は桑畑に蚕の餌である桑の葉を採りに出かけて皆留守である。 表に自転車の音がした。郵便屋さんの様である。出て見ると、土間に一通の大きな封筒が投げ込んであった。拾い上げて見ると「農業協同組合」からのお知らせの様である。ふと受取人の ...
続きを読む »ニッケイ俳壇(889)=富重久子 選
サンパウロ 広田ユキ
秋晴や神に委ねし我が余生
【若い頃はあまり感じなかったが、最近は月日の経つ早さに驚いている。特に私達のように毎月の句会や俳誌の編集に追われていると、一層強く感じる…】
続きを読む »05年の書籍を全面刷新=『新版 現代ブラジル事典』
ブラジル日本商工会議所(村田俊典会頭)が先月20日、書籍『新版 現代ブラジル事典』を新評論から出版した。2005年に出した旧版を新たに更改したもの。リオ五輪によって当地への関心が高まることから、最新版の発行に至った。 分野別に7章で構成され全254ページ、3780円。新版では主に、00年以降の動向に焦点が当てられた。フェルナン ...
続きを読む »自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(3)
その頃、進駐軍の車は皆な「ガソリン車」で有った様だ。太郎の田舎の車は、いや、日本全国では木炭車が殆どの時代だった。将来は日本も「ガソリン車の時代」が早急に来ると信じられて居たのである。大阪に行くと言っても今時の社員とは雲泥の差があった。仕事は「丁稚奉公」並みなのであった。見習い修業は想像を絶する努力と辛抱を要する重労働であった ...
続きを読む »自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(2)
母親がめずらしく涙しながら大きくなったお腹を撫でながら、諭していたあの言葉は、太郎が生涯忘れられない「母の言葉」と成りました。「上の二人の兄ちゃんは、もう兵隊にゃいかんで良かけん、外で働いて貰う。太ちゃんはまだ十歳ばってん、母ぁちゃんのお手伝いをして呉れんネ。そして、よそんもん(他所の人)に負けんような人間になって勉強もして貰 ...
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