サンパウロ 松井 明子 蔓サンジョン眺めつ遠き旅に出る【「蔓サンジョン」はブラジル原産。街中ではあまり見られないが、郊外から奥地に行くと崖に蔓を伸ばしたり牧場の柵に巻きついたりして、初冬から橙色の筒型の花を咲かす。 その昔、旅に出ると牧場や木立の木々に蔓サンジョンが懐かしい色に咲きついで、飽く事知らず眺めた ...
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運動会=サン・ローレンソ・ダ・セーラ 丹生登
近年の日系団体の集まりに若い人達の参加が少なく、特に県人会の集まりなどには高齢者が殆んどで、如何にして若者を集めるかが各団体の課題のようです。戦前は団体の中心会館が寄り所で、 戦後も私が移住してきた当時1950年代後半期から60年代頃は、日曜には会館に行って何かの催しに参加するか、出来ずとも寄り逢う所で見聞を高めていたのが思い ...
続きを読む »ガウショ物語=(31)=娘の黒髪=《6》=爺さんの素早い山刀さばき
「おれの方からあの赤毛野郎にくれてやる! 好きなだけ寝てこい、この雌犬め!」 額に青筋を立て、目をギラつかせた隊長は、娘の腕を離すと、ほどけかけた三つ編みをつかんだ。手にぐるぐるとふた巻き、首筋のところまで巻きつけて、頭をぐいと引っ張った……もう片方の手で短刀を引き抜き、ギラリと光る刃を憎い女ののど笛に当てた……。 刃はわずかに ...
続きを読む »パナマを越えて=本間剛夫=93
小屋の中は黒かったが、老爺がカンテラに火を入れると闇の中から少年と少女二人の顔が浮かび上がった。青年が老夫婦に私を日本人の友人だと紹介した。私たちは旅装を解いて土間に座り込んだ。老婆は土間の隅で夕食の支度を始めるかと思っていると、黄色い厚い煎餅のようなものを差し出した。「食べろ」というらしく何か呟いた。青年にならって私もおし頂 ...
続きを読む »パナマを越えて=本間剛夫=92
そういってエスタニスラウは一枚のカードに二人の女性の名と住所を書いて私の手に握らせた。 ◎ 私は日本を発つ前の十日間、南米における農民の革命運動とはいえない農民の暴動に関する資料を集めて読み漁った。農民といってもそれは白人系に限られたもので原住民はいつも運動の埒外にあった。白人国のチリを除いて総ての国に土地問 ...
続きを読む »ガウショ物語=(30)=娘の黒髪=《5》=目が覚めるほどの混血美女
そのとき、わしらの頭の上の幌つき荷車の中から、話し声が聞こえ、若い娘の笑い声がした。そして、女がペチコートの音をたてながら降りてきた。 膝を抱えて座っていたシルーは女の気配に気付くと、頭を垂れて顔を隠した……帽子は額と腕の間で押しつぶれた……。娘はわしらの前を通った……見たところ一人は眠っているし、今一人は間抜け面の男、つまり ...
続きを読む »パナマを越えて=本間剛夫=91
私は驚いて男の顔を見つめた。濃い髭ずらのエスタニスラウなのだ。懐かしいポルトガル語だ。彼は私の肩を抱いて髭ずらを私の頬にこすりつけた。私は直感した。エスタニスラウがここにいるなら、ゲバラもここだ。次の瞬間、小心な私は身の危険を感じた。私は旅商にエスタニスラウをブラジルの友人だと紹介すると彼は「奇遇ですね」と言い残して部屋へ戻っ ...
続きを読む »パナマを越えて=本間剛夫=90
「ハポネスだね。ここへ何しにきたんだ」穏やかな口調だ。「サンファン」「ああ、日本人移住地だね。あんたは移住者じゃないね。どんな用事で? 職業は?」「友人を訪ねるんです。ラパスの大使館に勤めています」 私は胸のポケットから大使館発行の身分証明書を出して見せた。兵隊はその証明書の写真と私の顔を見比べていたが、本人と納得した様子で「あ ...
続きを読む »ノン ポコレンデ=マリリヤ 日高徳一
過日、西銘光男氏と駒形秀雄氏の投稿を拝見し、ごもっともなご意見だと思いました。ブラジル人が口にするのでしたら、日本人をからかった言葉です。 私は戦時中をブラジルで過ごしたものですが、『ジャポネス ガランチード』なる言葉を、戦時中にブラジル人や日本人が口にしたのを耳にした事はありません。 戦後、邦字紙が再発刊されるようになって、 ...
続きを読む »パナマを越えて=本間剛夫=89
彼らがサンファンに着いたとき僅か五、六ヘクタールばかりを伐採した空地があるだけで周辺は昼なお暗いジャングルで大木が聳え、その下は密生した草木で覆われ、わずかに獣類の通路と思われる踏まれた雑草の窪みがあるだけだった。 西川は二万ドルの資金を用意していたというが、その大半は移民のために費やし、しかも現地に到着しても日本政府が約束し ...
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