文芸

  • パナマを越えて=本間剛夫=81

     そのとき傍らにいた三十歳ほどの男がエスタニスラウに近づいて握手を交わしながら私に冷たい視線を投げた。エスタニスラウはその青年と旧知の仲なのだろうか。そのことを質そうとしたが、彼が同伴者の紹介を始めた

  • パナマを越えて=本間剛夫=80

     その夜、コーチの顔が唐突に私の瞼に浮び上がった。コーチは今、どこにいるのだろう。三年間、殆ど彼の存在を忘れていたのに、珍しく彼は笑顔を作って眼の前に立っていた。ホンジュラスからパナマ、横浜へと約二カ

  • 『クワレズマ』はクワレズメイラという南米原産のノボタン(野牡丹)科の花樹(かじゅ)の事 。(写真は2010年3月20日付けエスタード紙でも紹介されたリベルダーデ(東洋街)のクアレズマ)

    ニッケイ俳壇(838)=星野瞳 選

       セーラドスクリスタイス   桶口玄海児 母作るボリンニャデシューヴァ夏休み雨降れば人恋しがる山家猫マンゴー樹をマリタカの群れ襲いたるブラジルの萩水昌村の霧宿しインジオの少年を呼びラン捕りに(ラン

  • ニッケイ歌壇 (488)=上妻博彦 選

          モンテ・カルメロ    興梠 太平 知人より送って来たる自分史にそんな歳かと気づいたあの日八十まで生かされて来て六人の孫もすこやか感謝の気持久しぶり畳・布団に横たわりしみじみ思う昔の事を仏

  • パナマを越えて=本間剛夫=79

     エリカ姉妹の処置をめぐって敵対してきた副官とは思えない恩讐を超えた炎々とした声色だった。二人の和解は私にとっても嬉しかった。二人の間に蟠(わだかま)りの種子を蒔いたのは私だったからだ。「そうですな、

  • 『パモンニャ(パモーニャ)』はトウモロコシを牛乳やココナッツミルクで溶いて団子にし、茹でてトウモロコシの皮で包んだブラジルの伝統料理

    ニッケイ俳壇(837)=富重久子 選

       サンパウロ         広田 ユキ  四月馬鹿不老長寿てふ薬飲む【「四月馬鹿」は元々欧米の習慣で、四月一日の午前中に軽い嘘をついて人を騙しても許されると言うこと、又騙された人を言う。しかしそ

  • パナマを越えて=本間剛夫=78

     私の胸の中で息絶えた黒田上等兵の血ぬられた小石が上衣のポケットにある……。私は無意識に、その小さい石魂を撫でていた。そのとき、不意に、洞窟に埋れた同僚たち、それから不十分な看護の下で死んでいった三百

  • ポルト・アレグレにある有名な「ラッサドールの像」(Foto: Claudio Fachel/Palacio Piratini)

    ガウショ物語=(26)=娘の黒髪=《1》=馬に乗った別人になる男

    「お前さん、わしが長い間、女の髪で作った馬の轡や端綱を使っていたこと知ってるかね?……もっとも、そのことにまったく悪意はなかったんだが」 ずっと後で、髪の主が死んだと聞いた。それを知ってすぐに馬で駆け

  • パナマを越えて=本間剛夫=77

     エリカは瞼を瞬いた。 そのとき庶務の兵隊が入って来たので話は中断した。今も君を愛しているというには、今のエリカは遠く高い存在であることを悟らなければならなかったが、それでも彼女の愛を確かめたかった。

  • パナマを越えて=本間剛夫=76

     その情報の中で、日本人の海外旅行が二十年間禁止されるという私にとって暗いニュースもあったが、私は感情の乱れを抑えるように努めた。上司や戦友たちを刺激したくなかった。司令部からは毎日命令が出され、それ

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