未練がましくカビウーナが相棒を探して、たまに近くまで寄っていやな臭いをかいでいると、群がっているハゲタカどもがヨチヨチと離れる。腐った血をなめたり、ドウラードの肉の破片を飲み込んだり、吐いたりしながら……。 黒い悪魔みたいなこいつらほど憎らしい奴はないね! だがな、カビウーナが一頭になったら牛車が引けなくなっちまったんで、それ ...
続きを読む »文芸
パナマを越えて=本間剛夫=63
私は断崖の上に立って目もくらむ眼下した。病棟の傍らを流れる小流が生い茂る萱の間から白く光って見えかくれしていた。断崖の高さは約五十メートルはあろう。六十度ほどの傾斜の中央に数本のゴムの大樹が突き出ており、大きく枝を広げて谷底を覆っている。あそこだ。あの中にいる。私は信じた。あと三日間という切迫した時間への焦りがそうさせるのでは ...
続きを読む »ニッケイ俳壇(835)=富重久子 選
サンパウロ 山本 紀未 旅人木人生航路七転び【「旅人木」は、マダガスカル島原産で芭蕉科、高さ二十メートルにも達する木でブラジルの秋の季語である。その葉は扇の様に広く根元に大きな瘤があり、蓄えたその瘤の水を旅人が呑むと言うことから「旅人の木」として俳句人が句に詠み、私も好きな季語である。クルビ、ピネイロスに ...
続きを読む »『ブラジル日系文学』
『ブラジル日系文学』49号が刊行された。 「第32回武本文学賞」の小説、随筆、翻訳、俳句、短歌、川柳、詩の各部門における入賞作品が掲載されている。 その他「ブラジルのハイカイの流れ」(中野みずほ)、「死者を悼む」(切明千枝子)「2014年度の大統領選挙(後編)」(空出木)など。
続きを読む »パナマを越えて=本間剛夫=62
言葉に詰った。用件というほどのものではない。私が蘇生させた女のその後の容態が知りたいこと、第二にエンセナーダの港町で抱いた戯れの相手かどうかを確かめたい。もし、あの時の女だったら、コーチを知っている。なぜメキシコの田舎娘がアメリカの航空将校になっているのか、その謎も解きたい。得体の知れないコーチとの関係も……。「見舞いたいので ...
続きを読む »「ジャポネース ガランチード」ってなに?=サンパウロ 西銘光男
一世紀を超える日系社会の歴史の中には、いわゆる「コロニア語」と言うのがたくさん生まれた。これも日常生活の中から生まれた一つの文化である。 だが中には何とも頂けない代物がある。「ジャポネース ガランチード」と言う奴。俗悪極まる差別語がいつの間に称賛の形容詞になった?いい加減にしろ!と言いたい。この言葉は日本移民初期(1930年代 ...
続きを読む »文協60年記念誌=事務局で取扱中
ブラジル日本文化福祉協会(木多喜八郎会長)が創立60周年を迎え、刊行された記念誌『文協60年―過去、現在、そして未来』(ポ語)だが、事務局にて一般向けの販売を開始した。価格は60レ。 問い合わせは文協事務局(11・3208・1755)まで。
続きを読む »ガウショ物語=(18)=老いぼれ牛=<1>=人も時に畜生よりむごい
いやはや!……人間ってのは、時に畜生よりも酷(むご)いことをする! お前さんだって、身の回りをみれば、惨たらしい場面に出くわしたことが何度もあるんじゃないかな。……そうさ、わしには忘れられん話がひとつある……。たぶん死ぬまで忘れられんだろうな……、ちょうど、女乗りの老いぼれ馬に乗って尻を真赤に腫らしてしまったことが忘れられんよ ...
続きを読む »パナマを越えて=本間剛夫=61
私が蘇生させたのだから―ということばを押し殺した。この場合、相手に圧力をかけるような感じを与えるのは不利だと考えたからだ。果たして衛兵は私の単刀直入な申し出に芽を曇らせた。「それは……どうも、医務長の許可がないと……」当然だ。兵長は気の進まない面持ちで動こうとしない。「医務長の許可をとってくれませんか。医務長は私をご存知の筈で ...
続きを読む »ガウショ物語=(17)=チーズを食わせろ!=<2>
相変わらずの忍耐強さで、爺さんはようやく自分の昼食の注文をした――卵と腸詰一切れ、それにコーヒーだ。それからチーズを切りはじめた。まず半分に、そして、その一つを八つか十切れくらいに切り分けた。切り終ると、みんなに勧めた。「さあ、やってくれ!」 礼は述べたがだれも手を出さなかった。そこで、爺さんはしつこく催促していた男に言った。 ...
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