文芸
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パナマを越えて=本間剛夫=45
続いて情報を申告しなければならなかったが、報告すべき事項が今日に限って多すぎた。しかし、省略するわけにはいかない。「どうしたのか、お前、その血は?」 軍曹は初めて私の上衣から袴にかけてべっとりとこび
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ガウショ物語=(6)=黒いボニファシオ=《2》=草競馬の賭けで勝負
あいつは、まだすっかり手なずけていないに荒馬に乗って、意気揚々と現れた。尾に白い毛の混じった青鹿毛で、長い脛に厚い胸、細い耳には鋏で切れ込みが入れてある。たてがみ鬣は首の半分まできれいに切りそろえて
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パナマを越えて=本間剛夫=44
私は今朝の敵編隊機の爆音が異様な不調和音だったことに何かが起こりそうだという予感を持ったことを思い出した。それは、今までソロモン海域の島々でもいくどか経験していた。敵機の爆音の異常さが、その日の誰か
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パナマを越えて=本間剛夫=43
そこはゴムの樹ばかりで、その小枝が千切れ飛んでいるほかは、何の異常もないのだった。初め電線に引っかけて減速し、次に柔軟で弾力のあるゴム樹林に突っかけたのだ。地上や海上に突っ込むのとは違って、衝撃度が
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パナマを越えて=本間剛夫=42
「うううっ!」 老少尉は前こごみになり胸を抑えて唸いた。 私たちは不意のできごとに保然と眺めるばかりで、声を出す者もいない。 実戦に最も縁遠い私たち衛生兵の耳にも、サイパンが陥ちたという噂が入っていた
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パナマを越えて=本間剛夫=41
一、 クレゾールを医務室から受領するようにいい添えた。これも各病棟から三カ月も前に申請した者だ。三ヶ月も病棟は消毒されていない。 病棟によっても事情は違う。私の第十六病棟の患者は歩行困難な栄養失
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ぶらじる川柳、第65巻
『ぶらじる川柳』第65巻(第1号、通巻204号)が発行された。 「巻頭言」(荒井花生)、「弾琴集」その3句「誤字脱字直す教師も居なくなり」(堀内のぼる)「今日ものむ覚えられない薬の名」(藤倉澄湖)「
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パナマを越えて=本間剛夫=40
私たちはこの三年間の転戦で、南海の島々の、食するに足るものは総て食べつくしてきた。海軍がまだソロモン海域で制圧していた頃には豊富な魚類が食べられた。陸地の植物ではパパイヤ、マンゴー、バナナ、キャボ、
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ガウショ物語=(5)=黒いボニファシオ=《1》=皆を骨抜きにするお転婆娘
……その黒い若者は悪い奴だって? そりゃもう! 救いようのないロクでなしだった……だがな、勇敢な奴だったことも間違いない。 テレンシオ少佐の愛馬――顔と四足の白い黒馬だ――とナディコ(太っちょで片足
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パナマを越えて=本間剛夫=39
衛生兵のどのような介護があろうと、明るいもの、希望するもの、期待できるあらゆるものに背を向け、そこに沈潜することだけが愉楽になってしまうのだ。患者と看護する者の間に一線を引いてしまう。そこには合体す