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中島宏著『クリスト・レイ』第98話

 アヤや、ここにいる他の日本人たちの行動や態度を観察しながら、できるだけそれに近づこうとしたことは事実です。まして、こういう個人的な感情の問題となればなおさらのこと、アヤの立場を考える必要があるというものでしょう。僕は、そういうものを僕なりに解釈して対応してきたつもりです。だから、いってみれば今回のようなことは、すべてアヤの態度 ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第97話

 でも、駄目だった。その気持ちは日増しに高まっていくばかりで、コントロールが付かなくなって行くような雰囲気だったわ。そこで、あなたはこのことを、つまりこの私の気持ちの変化を感じ取っているか、いないのかを探ってみようと思ったの」 「で、どうでした。僕のその時の気持ちが分かりましたか」 「ところが、それがまったく反応ゼロでね、ああ、 ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第96話

「もちろん、よく分かります。そういう返事はいかにもアヤらしいという感じですね。何事にも真剣に考え、取り組むという姿勢は、こういう交際という問題にもきちんと表れているということですね。分かりました。アヤがそういうふうに真剣に考えてくれるのだったら、僕もやはり、同じように真剣に考えてみなければなりませんね。 あ、いや、これまでの僕の ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第95話

 はっきり言ってねマルコス、こういうふうに人を好きになるということは、私にとっては初めての経験なの。そりゃあ、初恋のようなものや、片思い的な淡い恋心を抱いたことは今までにもあったけど、それはまあ、通り一遍といった感じの、誰でも一度は味わうというようなものね。でも、今回の場合は様子が違ったわ。  何というのでしょう、人を好きになる ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第94話

 でも、残念ながら、というか、結果としては、それに勝てなかったということになってしまったわね。だから、さっきあなたも言ったように、私もそこに罪悪感のようなものを感じてるの。だけど、こればかりは、すべて理性的に考えて行動するということが難しいということなのね。頭の中で考えていることと感情的な部分とが、なかなか一致しないという証拠み ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第93話

「じゃあアヤ、あなた自身の問題としてはどうなんですか。僕との場合、単なる友情ではなくて、恋愛感情に発展していったとして、そこであなたは、どんな選択をするのでしょうか。要するに、その日本の伝統を取るのか、あるいは、、、」 「あるいは、そのタブーに挑戦して、それを打ち破るという行動に出るのか、ということね。そうね、私の本心を言えば、 ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第92話

 ところでね、アヤ、さっきあなたは、誤解を受けるかもしれないけど、と断ったけど、その誤解というのは、どういう意味なんですか。二人の間に生じ始めているものが、つまり、波長が合うというような現象が、誤解を招くことになるんですか」 「あ、それはね、マルコス。私が言いたかったのはつまり、その、そういうことを感じ始めたということは、何とい ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第91話

 はっきりいうとね、私たちの仲間では、もうお互いが分かっているという感じだから、あまりこういう問題に関して話し合うとか議論することはないわけよね。それが、あなただと自然にこんな話が出来る。  何なんでしょうね、これは。つまり、何なんでしょう、こういう出会いというのは」 「それは、キリスト様の思し召しということでしょう。  と、ま ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第90話

 まあ、移民して来たことの動機は、いってみれば単純明快といったような形のもので、それは、遥か遠くの地平線を目指して行くというような、開拓精神に繋がるものであったかもしれないわね」 「その辺は、僕にもよく理解できますよ。あなたたちに限らず、ヨーロッパから来た僕の先祖たちも、皆同じような考えや精神で、このブラジルにやって来たのですか ...

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中島宏著『クリスト・レイ』第89話

現実に、そのように隠れキリシタンがはっきり蔑視されるとか、差別されるという問題があったわけでもないから、それが移民の動機になったということはないわ。 でも、新しい国を目指すとき、それがブラジルのようにカトリックの国であり、しかも将来に向かって大きく伸びていくような国であれば、私たちにとっては、まあ理想的な世界というふうに映ったこ ...

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