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文芸

パナマを越えて=本間剛夫=25

 コーチは突然、暫くこの町に滞在すると意外なことをいった。何故? と質ねたが、コーチは急に用事ができたのだ、という。得体の知れないコーチのことなので深くは尋ねなかったが、コーチの方から説明した。「ここは、国際スパイの拠点だ。世界の女が集められているんだ。敵国の情報を掴むには、その国内よりも、隣国での方が正確なんだ。わしは仕事上、 ...

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パナマを越えて=本間剛夫=24

 数十基も並んだ石油タンクの上部に、大きな蝙蝠が描かれ、その下にやはり活字体の太文字で社名があった。タンクの正面から見上げると、その米国系石油会社の名称の大きな文字は、エンセナーダの市民を威嚇しているようだ。手入れの行き届いた敷地一杯に広がる芝生に、テニスコートとプールが見える。土と砂のデコボコ道路と鉄条網が隔てる二つの世界の格 ...

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パナマを越えて=本間剛夫=23

 「私は中南米の人間に、もっと魚を食べさせたい。特に海のないボリヴィアのチチカカ湖を大きな漁場にして、アンデス人に食わせる。チチカカを鱒の大養殖場にする。君、ボリヴィア人の平均年齢は三十六才だ。動物蛋白がとれないからだよ。アンデスのチンチラは世界一の防寒服になるが、その肉は知れたもんだ。いくら毛質がいいからといって、毛は食べられ ...

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『のうそん』

 『のうそん』1月号が発行された。 随筆「幸せのタネをまくと幸せの花が咲く」(岡本一志)、随筆「思いやり」(五十嵐司)、随筆「青年よ 大志を抱け」(後藤たけし)、随筆「ジャポネースガランチード」(駒形秀雄)、俳句「のうそん俳壇」(樋口玄海児)、小説「白い奔流⑧」(松尾祐至)、小説「黄泉(よみ)の国から」(田口さくお)ほか。 問い ...

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パナマを越えて=本間剛夫=22

 もう、そろそろ夕食の時間だ。時計を見て、ゆっくり食堂へ向かった。食堂の窓が明るく、薄いカーテンを通して二人の影が見えた。 コーチは私の素姓も胴巻きのことも知っているらしい。ボリヴィア人の商人、日本漁船の船長である彼が自分の船を離れて、この貨物船に乗っているのだから、日本人に違いない。 それなら、なぜボリヴィア人だというのか。疑 ...

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椰子樹

 『椰子樹』3月号(360号)が刊行された。 「わが愛する歌人(15)吉野秀雄」(片山貞美)「前略…草々」、作品「農に生きて」(酒井祥造)、題詠「親・おや・しん 多田邦治選」ほか。

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パナマを越えて=本間剛夫=21

        7  日光丸は給油を終えて第一閘門に入った。うしろの閘門が閉じると、両壁に貼りついている無数の鉄パイプから注ぎ込まれる水とガツン湖から引かれた噴水式ポンプの水が噴き出て、見る間に第一と第二の閘門の水面が一致する。すると第二閘門と次の閘門の扉が開いて日光丸はその中に入る。 二光丸が進むのは、両岸を進む小型電車のよう ...

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パナマを越えて=本間剛夫=20

 これらの日本漁船は決まった基地はあるが、魚群を求めて北部ブラジルからギアナ、ヴェネズエラ海岸を含む大アンチル列島を曳游(えいゆう)しながら獲物を母船運ぶか、最寄の港で処分する極めて自由な海の放浪を続けるものだったから、一度日本を出ると交替が来るまでは、一年、二年と故郷の土を踏むことが出来ない。 ところで、コーチはどこから来たの ...

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『蜂鳥』

 句集『蜂鳥』322号が刊行された。 「蜂鳥集」より3句「門入れば松葉牡丹の庭となり」(土田真智女)「独り居に遠来の客火取虫」(森川玲子)「水の面にみどりに映えて布袋草」(中間淳一)、特別寄稿「春の闇」(渋江安子)、旅吟「パリの夏」(林とみ代)、「マチュピチュへ」(田中美智子)、エッセイ「消えゆく日本語」(五味国夫)ほか。

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パナマを越えて=本間剛夫=19

 その船も貨物船で日光丸よりも一回り小さく六千トン級らしかった。私は奇妙な感じにかられた。外国の領域で敵、味方が、何のわだかまりもなく、順番を待っている。此れが現実なのか。現実に厳然として実在する光景なのか。戦火を交えているお互いの国の、おそらく敵も軍需物資を満載している船の船員同士が、全く自然に眼前にある。その矛盾、不合理が、 ...

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