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文芸

花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=49

 また日本を出るときに持ってきたというダイヤの指輪を売って欲しいと頼まれたこともあったため、岡山弓子の生活の苦しさを美紀子からたびたび聞かされある程度は理解していた。 コチア青年である彼女の夫は、ニンニク、牛蒡、人参、サラダ菜などの野菜作りをしており、弓子はその牛蒡も朝市に「ササガキ」を作って晒して売れば、少し高く売れるからと夜 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=48

 一九八〇年代のハイパーインフレ時代は遠い昔になってしまい、二〇〇五年現在は一ドルに対して一レアル七九センターボスである。ドル値はどんどん落ちてゆくばかりの気配で、上がる気配は見えない。なぜドルがこの国でこうも下落するのか理解できないが。 「せめて三レアイスくらいに落ち着いてくれるとやり易いのに」というのは輸出業者の言葉である。 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=47

 こうしてますます金持ちになる御仁や、ドル計算のサラリーを貰っている駐在員に対して「ドル族」と言葉が生まれたくらいである。日本人宅に入った強盗は「ドルを出せ」と言った。強盗だって知っている事実だったのだ。このハイパーインフレの八〇年代の利子の計算は、日本の方々には想像もつかないだろうが事実なのである。そして、起こるべくしてデノミ ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=46

 「そりゃ、承知しないわよね、そういう状態では。いくらなんでもね。出て行く出て行くを繰り返していたそうだけれどね、出て行く所がないし。青年にしてもせっかくの花嫁を逃がしたくはないし、誰かが知恵をつけたのでしょうよ、押さえ込んで孕まして、泣き寝入りをさせたと言うことよ。一つ屋根の下で寝てるわけだからね。ユリさんみたいに、親切に助け ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=45

 しかし、青年が日本を出る前に、すでに婚約していた女性が渡航して来たというのと、写真見合いをして花嫁移民として渡航するのとは、まるで内容が異なるとはいえ、本人たちも「私は花嫁移民ではない」と言う。 コチア農業組合は拓殖部に「結婚相談部」を設置し、一九六三年に相談員を日本に派遣して花嫁の募集をはじめたそうで、「戦後移住の五十年」に ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=44

 一九五五年九月に「コチア青年移民」の名で始まった独身青年の移民は、一九六八年一月に最後の青年移民百十人が渡航するまで続いた。この十四年間に二五〇八人の青年が移住していると「戦後移住五十年」(一九五三年~二〇〇三年)に記されている。 全国から集められた移住を志す青年たちの年齢は、十八歳から二十四歳程度であった。教師、大工、機械の ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=43

 このジャガイモ成金たちは、料亭内に一部屋借り切って、何週間も入り浸りだったそうだが、奥地から出てきて所用をかねての遊びと考えれば、ホテルもかねていたのではないかと思う。 「バタテイロやったうちのマリード(夫)が死んだ時、青柳のホステス達が焼香に列を成したものよ、自慢にもならんけど」とウルグアイから来た私が拠り所とした松岡春子は ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=42

 もとは日本食の恋しい一世達に、饂飩や丼物を食べさせる店だったことから、「料亭」と呼ばれるこの規模に成功したとのことである。 わが客になってもらいたい仲居さんたちに会う前に、女主人に挨拶するため、別室に案内されて話をしていたときの事だった。 「あなた器量も良いし、関西弁だし、良い客が付くわ。今のあなたの稼ぎは幾ら? たいしたこと ...

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歌壇界の貢献者が一冊に=小野寺郁子さんが執筆

18人の歌壇家がまとめられた「流れの韻き」

 短歌誌「椰子樹」に連載された「ブラジル歌壇を支えた人々」が一冊の本にまとめられ、『流れの韻(ひび)き』(120ページ、日毎叢書発行、小野寺郁子著)として刊行された。ブラジル歌壇界に貢献してきた故人18人が登場する。 古くは1925年にアリアンサへ入植した、歌壇界の先駆者である岩波菊治さんや、パウリスタ新聞元記者で2012年に逝 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=41

 日本から来たばかりの若い男にとって、気なることは家賃ばかりで、娘心を知らない男のすること、ましてやこの上なく便利な暮らしの日本から来たばかりの花嫁には、郊外の辺鄙な低所得者の町には住みにくかったと言える。 「あそこ、引っ越してなあ」と彼が言い、 「ふうーん」と私は返事をして、それきり彼に会わなかった。 ペンソンの主の話では、リ ...

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