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文芸

花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=10

 出征間際でもあり、その頃は周囲の人たちもまたそれを当然のこととしたのだろう。そして父親なる男の出征後に私が生まれたというわけである。 「農繁期に働ける者がおらん、男が出征して居ない家には、嬰児は大変手のかかる困った存在でしかなかったからね、仕方なく生まれてすぐ養女に出したのよ」と聞かされたのは十才の頃だったろうか。 十代の時も ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=9

 ダッコちゃんにかぎらず、写真と書類による見合い結婚には、いくらかの不都合があった。花婿側は騙すつもりは毛頭なく、ただ写真の背景として良い場所をえらび写したに違いないが、成功者の先輩の家とかパトロンの家や庭を背景にした写真を送り、花嫁側はそれを花婿の家だと思いこんでしまったことも、笑うに笑えない話だが現実にあったようである。 「 ...

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ピンドラーマ、9月号

 コジロー出版社のブラジル情報誌『ピンドラーマ』9月号が発刊された。 「各国移民レポート ギリシャ編」「ブラジル地方ライフ 郷土食編」「陰謀説も渦巻く航空機墜落事故」など。サッカー、グルメといった毎月のコーナーも掲載。 問い合わせは同出版社(11・3277・4121)まで。

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=8

 「やっぱり外国暮らしは違うね、日本じゃ粗茶ですが、だよ」と、みんなで目をまるくしたが、この言葉は、その後ずうっと私の中に生きつづけ、素直にそれを言える暮らし方を今はしている。 サントス港で人も積荷も降ろした船は、がらんとしたまま次の寄港地ブエノス・アイレスに向かった。事業団の監督官が残り、外務省の人はサントスで下船した。船内に ...

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諸川有朋さん著『日本人の特質』=後世に伝えたい生活文化

 ブラジル日本語センターの諸川有朋副理事長が、日本語学習者や日本に関心のある非日系向けに、日本人の文化や習慣をまとめた短本『日本人の特質』(ポ語)を刊行した。同センター後援。 諸川さんは「日系人約160万人の内、日語学習者は2万人ほどと見ている。世代交代が進み日本離れは顕著」と現状を捉え、「日本の良き習慣を後世に正しく伝えなけれ ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=7

 横浜からの花嫁以外の、他の乗船者たちともつながりはなく、ほんの顔見知り程度で、四十五日のあいだ同じ釜の飯を食べた仲でありながら他人のような感じで過ごした。顔さえ思い出さないのではどうしょうもないが、めぐりあい同船者ということで何となく、二、三人と親しくし始めたのは、上陸して数年経ってからのことである。  さらに、同じ花嫁移民と ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=6

 「チリ辺りへ移住し直したいわ、海産物が豊富でしょ、主人の仕事とは別にお鮨屋でもしたら流行るでしょ」と私は訪問先のお宅で言い、やはりこのお宅を訪問し、同席していた七十歳代の鋭い目の老人がムッとしたように、 「なぜっ、日本を嫌がる」と言った。なんだか変な老人だと感じたが、 「たぶん私は輸出向きなのよ、ブラジルが駄目なら、日本に帰る ...

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『朝蔭』 8月号

 『朝蔭』8月号(第418号)が発行された。 巻頭「句帳」(念腹、その一句「地を叩く鞭の先より蝿生る」)、「雑詠 寿和選」その3句「大空へ香気放ちて梅の花」(纐纈俊夫)、「秋蝶や歩くことなく過ぎし日々」(佐藤美恵子)、「語り部も年毎減りて原爆忌」(重川房子)、「解釈に戸惑う日本語」(秋村蒼一郎)、「弟の思い出」(寺尾芳子)、「句 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=5

 赤い靴を履いて日本を出でゆきし女の子とおなじ波止場を発ちぬ 赤い靴は子供のころに履いたきりだった。大人になって現在にいたるまで、どういうわけか私は黒や紺色の寒色系が好みで暖色の中でも赤はことに趣味に合わず身につけたことはめったにない。この出航の日も、もちろんそんな靴を履いてはいなかった。 しかし、日本で歌いつがれている童謡の女 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=4

 第二章 出航 私がウルグアイへの渡航手続きをはじめたのは一九六五年の春だった。花嫁移民はまず夫となる者の戸籍に入籍することが第一歩であり、本籍地にその手続きをしたうえで、その事実を夫なる人の移住している国の日本にある領事館へ届け出て、呼び寄せ手続きをはじめ、永住目的のビザをとり入国をする。 私の場合は先に述べたように、実母の妹 ...

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