ブラジルに着いた当時は、それこそひどく泣きたいほどだったのを覚えているが、果物だけは良く食べられた。荒山に住んだ2年間は時々買ってくるバナナを宝物の様に食べた。今からはもう少し頻繁に買って食べられそうだ。勿論充分な営農資金も無く、青田借での初年なのだが、それ位の贅沢は許されそうだ。 ムダンサのカミニョンは走り続ける。パストの中 ...
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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=15
収穫は無事に終わった。約1千アローバを越したそうで、貰い分は500アローバ余。金額にしてどの位になるのかわからなかったが、借金を引かれてもかなりの金額が残るはずだと、おやじと兄貴は計算した。ブラジルに来て2年と8カ月で、曲りなりにも独立が出来るとは、おやじと兄貴の采配と神仏の御引立て、そして耕主三坂さん、大塚久の助さんの助力の ...
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新開地の山にも慣れ、新しい棉作に向かう心が募る。山が良く焼けていたら、今頃は棉も良く出来ていたのかも知れないが、まだまだ借金の返済がやっとだったのである。小物を植えたお陰で、生活費の半分位は入ってきた現金で賄う事もでき始めているらしい。ひょっとしたら、これから借金せずに済むかも知れない。実際にお金が入った事は大きな強みだった。 ...
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寝台も4本の土台を打ち込み、ヤシの4つ割の上に蒲の干したものを敷いて寝るようになったのだが、王様にでもなった気分。宮殿は出来た。あとは便所と風呂と井戸が残ったが、水は当分、小川から汲んで来て使う。風呂はドラム缶と決めてある。今まではお湯を沸かし行水していたが、7月、8月は寒い目にあった。今度はドラム缶を使うので極楽だ。やっと便 ...
続きを読む »「たちばなの会」5周年=特別記念号を発刊
文章サークル「たちばなの会」(広川和子代表)による3冊目の文集『たちばな 5周年記念号』が、5月に刊行された。広島ペンクラブ事務局長の佐藤伊佐雄さんによる特別寄稿などが盛り込まれた。 同会から広川代表、斎藤早百合さん、平間浩二さんが来社し、「早いもので5年経ちました。テーマを決めて作文を書くことが、日々の励みになっています。文 ...
続きを読む »連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=12
労働者側から見たら、充分な食糧も配給して貰えず、食券で指定の売店でしか物が手に入らないというのも、耕主の専横ではなく政府の政策によるものであり、耕主も労働者も双方被害者であるというのが当時のブラジルの姿であったらしい。 1930年代からの移民の語りに依れば、バウルーとサンマノエルの中間の原野に大きい倉庫があり、広大な地域に鉄條 ...
続きを読む »連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=11
コーヒーの採集は大変な仕事なのだそうだ。この時期になると、朝早くは霧がかかり、露が多くて下半身はびっしょぬれる。うっすらと霜も降りる。青い実は落ちにくく、手は痛く、血がにじみ出る毎日だ。それが6月の末ごろまで続くらしい。叉コーヒーの木には蜂の巣や毛虫も多く、毛虫に触れたら火に焼かれたように肌が痛み、その日一日中苦しむそうだ。ま ...
続きを読む »刊行物=朝蔭5月号
『朝蔭』5月号(第787号)が発行された。 巻頭「句帳」(念腹)その一句「管長きキセル吸ひつつ蟹売れる」、「雑詠 寿和選」その3句「太刀魚があったと厨房妻の声」(遠藤永観)、「軒下の蜘蛛の囲ガスで焼き払う」(野村康)、「丸まりて夢見る犬の日向ぼこ」(相原貴余志)、「草の花」(堀石凡生)、「カルナバルインイタリアの旅」(矢島みど ...
続きを読む »連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=10
その夜は思わぬご馳走に、皆満腹で早くも眠くなったらしく、ゆっくり話の続きを聞きたい母は、急いで湯を沸かすと子供たちを行水させ寝付かせた。「文しゃん、1カ月ぶりに家に帰って来たが、もう立派になった様だね」と言って母は褒めて呉れた。 自分もやはり色々と考えさせられて、心が広くなったと感じた事は確かだ。人間としては成長したのでは、と ...
続きを読む »連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=9
ジャルジネイラが着いたのは午後4時頃だった。久さんは早く帰りたいのだろう。4時過ぎでないと便が無いので、それまでに鶏を箱から出して水を飲ませねばとも話していたが、箱の中で騒いでいる鶏は出したら逃げるだろうと思い、箱から出せず、餌もないが1日位では死なないからと、そうこうする内にもう時間だと久さんは帰ると言い、荷物があるので用心 ...
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