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文芸

連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=8

 どうやら60キロ位まで腕は上がったが、それ以上にはならなかった。でも人並ほどにはなれたので手伝いに来て恥をかかずに済んだ。久さん、忠男さん、智さん信一さん等皆と一緒に棉を摘み、日曜日の休みには小川に魚釣りに行ったりして遊び楽しい日々を送った。 すぐに明日は帰るという日が来た。大塚さん宅では丸い釜でパンを焼き、その後で鶏を2羽丸 ...

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刊行=「のうそん」第265号

 「のうそん」第265号(2014年5月号)が発行された。 研究「『眠り』の研究」(永田久)、随筆「思い出」(井口原道子)、「ボリンニョ・デ・シューバ」(武地志津)、「私の自慢の婿殿」(増田二郎)、俳句「のうそん俳壇」(樋口玄海児)、小説「小波の彼方」(松村まさゆき)、「白い奔流」(松尾祐至)ほか。 問い合わせは日伯農村文化振興 ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=7

 病気になったら働けぬ。仕事が出来なければ耕主の得にはならぬ、とその道理を説いて借して貰えれば、双方の得となる。体力の限界は何としても避けなければならない。耕地を離れ、大塚さんの手伝いに来てはじめて気が付いた。なぜもっと早く気付かなかったのだろう。そうと気が付いたら何だか元気が出たように思える。 もう、ここに来て何日になるだろう ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=6

 「行きはよいよい、帰りは恐い」のごとく、来る時には初めて耕地の外に出て、嬉しさと物珍しさで気が付かなかったのだが、所々牧場の中を通って来たらしく「気の荒い牛に追われて、息絶え絶えに逃げ、恐かった」の話を思い出し、急に恐くなった。 遠い丘の上の牛の群れを尻目に、1リットルの酒のビンを持ち直すと急ぎ足で家に帰った。家でも初めて使い ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=5

 ただ一つ困ったのは食べ物だ。子供の自分でさえ困ったと感じていたのに、両親はどんなに辛かったのだろう。米は有るとはいえ、屑米でパラパラしてまずい。日本にいたときは、白米は自家作、野菜も有り余るほどで、食べ物の不自由なく暮らしていただけにかなり辛かった。もう2カ月も過ぎたが、働くだけで金は見たことも聞いた事もなく、満足な食べ物もな ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=4

 私たちは早速バナナやみかんに手を出し、さっきまでの疲れと気落ちもどこへやら、腹いっぱいにご馳走になり、いつの間にか荷物にもたれかかって眠ってしまった。肌寒さを感じ目が覚めたとき、「コケコッコー」と一番鶏の鬨の声。ブラジルにも鶏が居て、日本の鶏と同じ様にうたっているのが嬉しかった。早く外に出てみたかったが、ブラジルには毒蛇がたく ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=3

 さあ着いた。此処がドゥアルチーナ、我が家の再出発点だ。少年ながらも夢はある。家も仕事も全てが新しいブラジルでの生活が始まるのだと思うと何となく勇気がわいてくる。 駅に着くと三坂耕地から貨物自動車で、耕主の甥の義男さんという青年と監督さんの二人で出迎えに来て下さった。同じ汽車で来た荷物を積み込み、同じ荷台に乗り込んでドゥアルチー ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=2

 窓ガラスに触ってみたら、あるはずのガラスがない。道理で煙が入ってくるはずだ。大半のガラスは壊れていてなかった。わざわざ出迎えに来てくれた大先輩の大塚さんによれば、ブラジルでは高い所から悪ガキ共が汽車を目掛けて石を投げ、窓ガラスを壊してしまうのだそうで、汽車の窓は大半が割れていた。 また、日本の汽車とちがって、ブラジルでは薪を焚 ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=1

第一節 運命 航海最後の夜――。もう暫くしたらブラジルの大陸が見えるだろうという人々の声が聞こえる。2カ月近くの長く単調な航海にうんざりしていた上に、目的地ブラジルを見たいという好奇心。それにブラジルでは真夏。船室からのがれ甲板で涼風に吹かれたいとの思いは、誰しも同じ。いつもなら子供が甲板に出る事は禁じられているのだが、明日はサ ...

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刊行物『楽書倶楽部』

 随筆集『楽書倶楽部』第23号が刊行された。 「らくがきえんせ紹介⑧ 荒木昭次郎さん」「ひこばえ」「無差別テロ」(中村勀)「有為転変は世の習い」(広川和子)「リュウゼツランの花」(鈴木登茂弥)「物の始まり」(三上治子)ほか。 日毎叢書企画出版では随筆、旅行記、思い出、経験談、自分史など、読者による寄稿も受け付けている。 問い合わ ...

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