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文芸

連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第142回  

  ニッケイ新聞 2013年8月21日    叫子がブーケを力いっぱい後方に投げると、奪い合う女性の甲高い声が響いた。ブーケを手にしたのは、整備士見習いの恋人で、割と小柄な女性だった。  結婚式はすべて終わった。スーツを着ている参列者は竹沢だけで、あとのものは普段の格好で式に参加していた。格式ばった感じではなく、二人を祝福してく ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第143回  

  ニッケイ新聞 2013年8月22日    歓声と会話でざわついていたバールだが、フェスタをしているテーブルだけが静まりかえった。 「日本では私のような黒い肌をしたミスチッサは差別され、それどころか結婚もできません。日本で暮らしていても将来に希望を持てないと思い、ブラジルに移住してきました。サンパウロでマリードに出会い、結婚す ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第128回

ニッケイ新聞 2013年8月1日  その日も南米銀行関係者の話を聞き、パウリスタ新聞に戻り、藤沢工場長の連絡を待っていた。 「話がある」  中田編集長が顎でしゃくるようにして、児玉を会議室に読んだ。編集部の隣の部屋には応接室があり、そこが編集部の会議室になった。 「いつも午後になると外で、いろんな人間に会って取材しているようだが ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第144回  

  ニッケイ新聞 2013年8月23日    部屋は日本の病室に比べるとはるかに広かったが、小宮は部屋に入れず、三階のエレベーター前の待合室で待機するように言われた。  五分もしないで叫子は分娩用の衣服に着替え、ストレッチャーで運ばれてきた。分娩室は四階で、エレベーターのドアが開くまでマリアが付き添いながら、叫子の手を握っていた ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第129回

ニッケイ新聞 2013年8月2日 「そうよ。あなたが来る前は、日本からすごい記者が来るって話だった。あなたがくれば少しは楽ができるかと思っていけど、取材先は以前と同じで負担は減らないし、タクシー代も出してくれないからバスで取材先を回る。コンデの坂を一日に二度も三度も往復するから、ダイコン足はますます太くなるし、家に帰ったら後は寝 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第145回  

  ニッケイ新聞 2013年8月24日    マリアは出産後もアパートにいてもらうことにした。  生まれた子供の名前の日本名はそれほど苦労することはなかった。日本に失望した二人が、サンパウロで出会い、希望を見出して結ばれた。そんな二人の子供に最もふさわしいだろうと「望」と名付けた。 「どんな意味なんだい」  ソファで授乳をしてい ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第130回

ニッケイ新聞 2013年8月3日  中田編集長の叱責を受け、安藤の助言をもらっても児玉は午後になとる編集部を出た。行く場所は人文研だった。一九七八年は移民七十周年で、日系社会は祭典に向けて様々な準備を進めていた。移民史料館の創設もその一つで、奥地に住む日系移民から様々な資料が人文研に届けられた。中には幻の資料と言われていた勝ち組 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第146回  

  ニッケイ新聞 2013年8月27日    児玉も最初のうちは人前で抱きあったりキスをしたりすることに抵抗があったが、若いカップルが何もしないでいる方が不自然と思われるほどで、どちらからともなくバスの中でもマリーナとキスをするようになった。  サンパウロから一、二時間ほど離れた町に取材に行った帰りなど、二人がけの座席に座り、抱 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第131回

ニッケイ新聞 2013年8月6日  ミッシェルまでは十分もしないで着いてしまう。児玉は意を決し言った。 「ナモラーダ(恋人)ができたんだ」 「それで……」テレーザは何事もなかったように聞き返した。  児玉が躊躇している間に、タクシーはミッシェルに着いてしまった。タクシーを降りようとするテレーザにアパートの鍵を渡した。 「時々でい ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第147回  

  ニッケイ新聞 2013年8月28日   「エー・ジャポネース(この日本人野郎が)」  取りつく島もなかった。  日系人とはいえマリーナは日本人とはまったく異なる文化の中で生きていることを児玉は思い知らされた。  マリーナは以前に「黒人とのミスチッサであろう白人とであろうが、ジャポネースの子供はジャポネース」と言っていた。しか ...

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