文芸
-
連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第121回
ニッケイ新聞 2013年7月23日 「なんだ、児玉さんは叫子さんを目当てに飲みに来たんだ。残念ね、彼女はいい人を見つけて、今はアクリマソンで暮らしているらしいよ」 「そうなんだ。どこのアパートだかわか
-
連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第122回
ニッケイ新聞 2013年7月24日 「日本で記事が出るとなると、家族が読む可能性が出てくるので……」いつもの小宮らしからぬ歯切れの悪い返事だ。 しかし、すぐにいつもの小宮に戻り、意を決したように言っ
-
連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第107回
ニッケイ新聞 2013年7月2日 他の整備士も技術を習得しようと懸命になっていたが、竹沢によるとパウロは何度説明してもオートバイのメカニズムを理解しようとしないと嘆いていた。その理由は現場で教えてい
-
連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第123回
ニッケイ新聞 2013年7月25日 そんな交渉をしている横のテーブルで中野が、A3の封筒から結婚式の写真のような表紙のついたアルバム三枚を取り出し、児玉に差し出した。中野は子供の頃、北海道から移住し
-
連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第108回
ニッケイ新聞 2013年7月3日 「きれいな眺めだ」パウロが言った。 叫子がフェジョンとサラダ、ブィフッエ(ステーキ)を次々に運んできた。絞ったばかりのオレンジジュースを三人のコップに注ぎ、叫子も座
-
連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第124回
ニッケイ新聞 2013年7月26日 飲む機会が減ったのは、体調を崩したことも理由の一つだが、パウリスタ新聞の給料がまともに支払われなくなったことも影響している。もともと給料は薄給の上に、さらに遅配が
-
連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第109回
ニッケイ新聞 2013年7月4日 テーブルの上を片付けていた叫子が、その手を止めていった。 「パウロ、字は書けるの?」 突然の質問にパウロは顔を上げて、叫子の顔をまじまじと見つめた。 「中学は卒業
-
連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第125回
ニッケイ新聞 2013年7月27日 「終戦直後はそうかもしれませんが、今の経営状況は園山社長が無能なだけでしょう」 園山は二世で、極貧の子供時代を送ったと言われていた。自分の給料だけは真っ先に中村の
-
連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第110回
ニッケイ新聞 2013年7月5日 「パウロ、聞いてくれ。叫子と相談したんだ」 顔を上げたパウロは涙を流していた。テーブルの上にあったティシュペーパーを二三枚引き抜き、叫子がパウロに渡した。涙を拭きな
-
連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第126回
ニッケイ新聞 2013年7月30日 「インクは一週間分くらいですかね。それよりも紙の方が問題です」藤沢はまるで他人事のように答えた。「紙は一ヶ月分くらい融通してもらっています」 児玉は二人の会話を聞