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文芸

連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第50回

ニッケイ新聞 2013年4月10日  船内には古いペンキの匂いが立ち込め、トイレは不衛生でアンモニアの匂いが鼻を刺激した。食堂にも米がすえたような異臭が立ち込めていた。幸代は姉のお下がりのスカートを着ていた。制服も私服も幸代はすべて姉のお下がりばかりで新品を着た記憶がない。しかし、帰国者の世話をするために乗船していた北朝鮮の女性 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第49回

ニッケイ新聞 2013年4月9日 「思いついたように帰らなくても、祖国が統一されてから帰ったっていいでしょう。あと一年すれば幸代も小学校を卒業する。それからだって遅くはないよ」 「帰ると言ったら帰るんだ。一日も早い方が子供のためだ」  しかし、仁貞は最後まで帰国に同意しなかった。いくら朝鮮総連が衣食住のすべてを保障するといっても ...

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刊行物『たちばな』

ニッケイ新聞 2013年4月9日  文章サークル「たちばなの会」(広川和子代表)による文集『たちばな』2号が、このほど刊行された。  読み手を魅了する文章を目標に、会員同士で切磋琢磨し文の腕を磨くサークルで、発足4年目。「山里の雪」(吉村淳)「正しい判断を」(梅崎嘉明)「セピア色の青春」(斎藤早百合)、ほか。  問い合わせは広川 ...

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刊行物

ニッケイ新聞 2013年4月6日 『ピンドラーマ』  コジロー出版から月刊情報誌『ピンドラーマ』4月号が刊行された。  「移民の肖像〜グァポレ移民の田辺俊介さん」「ブラジル経済正念場」「ポルトガル語ワンポイントレッスン」「ブラジル地方ライフ」などのコーナーのほか、グルメ、旅行、イベント、賃貸、求人等お役立ち情報も。  日系書店、 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第48回

ニッケイ新聞 2013年4月6日  日本への失望が大きい分、北朝鮮は眩しく輝いて見えた。容福自身も総連に通い、帰国手続きに関する資料を集め始めた。楽しそうに神奈川県の総連に足を運ぶ容福は祖国に一歩一歩近づいているような気分だったのだろう。  新天地ではすべてが一から始まるのだ。祖国建設に燃え立ち上った同胞が在日を温かく迎えてくれ ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第47回

ニッケイ新聞 2013年4月5日  金寿吉は忍耐強い性格で、どんな差別にも耐え忍んできた。しかし、差別されたまま一生を終えていくことに抑えがたい怒りがあったのだろう。帰国を考えるようになったもう一つの理由は、多くの同胞が北へ次々に帰国していったことだ。  北朝鮮への帰国は一九五九年から始まった。朝鮮総連によって北朝鮮は「発展する ...

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刊行物『ふろんていら』

ニッケイ新聞 2013年4月4日  詩歌サロン『ふろんていら』第36号が刊行された。  俳句、川柳、短章、短歌、詩の5部構成で、全33ページ。「問はず語り」(西朋子)「林檎畑」(浪速旅人)、「ヌートリア」(住谷ひさお)、「この国のこと」(小平文和)、「八十の日のうた」(大浦文雄)ほか。

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=46回

ニッケイ新聞 2013年4月4日  コンデの坂はプラッサ・リベルダーデ(リベルダーデ広場)まで続く。この広場を左折するとガルボン・ブエノ街で日系人、韓国人、中国人が構成する東洋人街の中心地にあたる。児玉はここにある明石屋に立ち寄った。  経営者は戦後移民で、ブラジルのお土産や宝石を扱う店だった。児玉は絵葉書を適当に五、六枚ほど引 ...

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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=45回

ニッケイ新聞 2013年4月3日  あれはいつだったのだろうか。四人とも泥酔状態で折原の下宿に転がり込んだ。何の話題からそうなったのか、児玉は思い出せない。おそらく将来のことについて話し合ったのだろう。 「わしは小説ば書きたか。小説ば書いて世に問うてみたいことがあっとよ」  折原は酔うと九州の訛がさらに出た。 「どんな小説を書き ...

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刊行物『椰子樹』

ニッケイ新聞 2013年4月3日  短歌誌『椰子樹』3月号(35号)が刊行された。  「作品 小池みさ子選」から3首「移民して百年すぎても邦人は祖国偲びて新年祝う」(古山孝子)、「ノーベル賞山中さんの受賞式世界の医学に輝く希望」(上口誠一)、「ダイヤ婚迎える夫に肩をかし二人で歩む今日の幸せ」(青柳ます)、「わが愛する歌人(8)渡 ...

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