その点、エンリッケはまるでそういう目的も持っていなかったし、元々遊び半分というところもあったから、まず、長続きはしないだろうとマルコスは見ていた。案の定、その通りになった。五ヶ月ほど経った頃、仕事の方が忙しくなったからというような口実を設けて、早々と辞めていってしまった。 ケンゾーの方は、マルコスたちとは違って別のクラスであ ...
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中島宏著『クリスト・レイ』第8話
あるいはこれは、ブラジルに移民したことによって、人々は宗教までも変えて改宗したということなのだろうか。 が、しかし、そのようなことは常識からいっても考えにくい。確かに、自分たちの人生を大きく変えてしまうほどのインパクトを、移民というものは持っている。が、それだからといって、それまで心の拠り所としてきた宗教までを、それによって ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第7話
日本語学校を見に来たつもりが、この異様な風景に衝撃を受けて、日本語のことは何だか影が薄くなってしまったような感じであった。ただ、そこにいた人々のほとんどすべてが日本人であったことは事実であり、そのために異国に入り込んだような錯覚が生じ、そのことが日本という東洋の国を意識させるような雰囲気にはなっていた。 「ああ、お早う、ケンゾ ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第6話
日本語学校と称する建物は、その広場にあった。木造立ての簡素なもので、やや大きな建物ではあったが、その質はこの辺りの農場の労働者たちが住む家と同じようなものだった。 ただ、マルコスたちの目を引いたのは、その建物の背後にあった、それよりもかなり大きな、別の建造物であった。集会所のような感じのものであったが、近づいて、よく見るとそ ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第5話
勉強そのものよりも、学校生活をできるだけエンジョイしたいと考えるタイプだった。その彼が日本語を勉強するというのだから、マルコスは咄嗟にその意図がよく理解できなかった。 「どうして日本語なんだ、エンリッケ。日本語を勉強してどうするつもりなんだ」 「どうするつもりも何もないが、俺の友だちで日系人がいて、そいつが日本語を教える学校が ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第4話
さらに、利益が上がった余剰金で、もっと奥地の広い土地を購入して行き、それまでには考えられなかったような規模までに増大させた。この頃になると、農業だけにとどまらず、牧畜にも進出していったから、総体的にはかなりの面積を持つことにもなった。 そして、その拠点は、バウルーからさらに北西に百五十キロほど奥に入った、リンスの町の近郊に移 ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第3話
限られた世界で、限られた生き方しかしてこなかった人々にとって、この茫漠とした、掴みどころのない大地で新しい生活を築き上げていくことは、彼らのそれまで持っていた価値観や固定観念を、一度かなぐり捨てるようにして放棄することを意味した。そして、それを受け入れることは至難の技だったといっていい。 それが出来るということは、精神的にか ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第2話
一九三〇年代は、世界中からのブラジルへの移民の流れが最盛期を過ぎ、やや、その勢いが衰え始めたという時期に当たっている。 とはいうものの、毎年のように移民としての外国人たちが、後を絶たないという感じでやって来るという流れは、まだ相変わらず続いていた。ただ、ドイツやイタリアからの移民は徐々に減少し始めており、あの十九世紀後半に見 ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』
はじめに あるきっかけから、私は、ブラジル、サンパウロ州、プロミッソン市近郊の田園風景の中に、世間からは隔離されたように建っている一つのキリスト教会と遭遇する機会を得ました。それは、本当に遭遇するという形容がぴったりするような、不思議な雰囲気を持つもので、教会の存在そのものが、何となく浮世離れした感じのものであり、ある種それは ...
続きを読む »臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(262)
ハキオは会計及び会計監査関係の会社員として働き、個人会社も経営していたが退職し、現在は年金生活者。ミルナ・マサエ、レジナルド・マサキ、ロジェーリオ・アツシ、エリアネ・サナエ、リカルド・キヨシの父、メイリー、ウィリーの祖父である。 ネナは黒崎博文と結婚。主婦だったが、2005年5月9日眠りながらシルビア・チエミ、ソランジェ・ヒ ...
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