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文芸

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(217)

 ルビーニョが外に出るなり、ドアを荒っぽく閉め、なかから鍵をかけた。ところが、彼の赤いコートがドアに挟まってしまった。懸命に引っぱったが抜けない。 「ぼくのドレス、ぼくのドレス」と叫びながら、ドアを開けてくれと懇願した。 「はっ、はっ、はっ。おまえは女の子のドレスをきるのか? コートという言葉もちゃんと言えないくせに」とドアも開 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(216)

 正輝はしだいに料理役をかってでるようになった。スープ作りには特異な才能を発揮し家族に喜ばれたのだ。豚の頭とケールを使ったスープで、アララクァーラ時代、豚を殺したときだけに作っていた料理だ。サントアンドレでは安く簡単に手に入る。火曜日、仕事を抜け出して、タヴァーレさんのパン屋に行きピンガを引っかける。洗濯場にはいつもピンガの瓶を ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(215)

 そのために経費はかかったが、正輝はお客を増やすには宣伝する以外に方法がないと思っていた。朝市は、顧客が買うつもりでくる場所だが、商店街は違う。だから、宣伝をする必要があるのだ。ポルトガル語でお客をフレゲーザというのだが、房子はフレゲージャと発音した。朝市のフレゲージャは品物のよしあしと値段をみて判断する。けれども、洗濯店の前を ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(214)

 何日か後、ミーチは別の場所を歩いていたとき、助けてくれた薬剤師にばったり会った。前回の場所とはまったく違ったところだ。薬剤師は仕事でそこにきていたか、だれかと待ち合わせをしちたのか分からないが、こんな遠いところで何をしているのか、と不審に思い訊ねた。  ミーチは「町を知るために歩き回っているのです」と答えた。  その日はミーチ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(213)

 一人はいかにも金があることを見せつけるように素敵な服を着、もう一方は顔が卵型のどんぐり目で大きな口のどうみても可愛いとはいえない子だったからだ。その子が相手を「アナ」と呼んでいるのをきいて、すかさず二人を指差し、兄たちにいった。 「すてきなアナさんとがま蛙」  そうよばれた二人は、いさかいをさけるために自分たちには関係ないよう ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(212)

 二人は、七面鳥は正月(沖縄の言葉でソグワチー)のメイン料理だということは知っていて、ほかの家族同様、その日を心待ちしていた。二人を落ち着かせるために 「丸焼きにする。もう、タヴァーレスさんのパン屋で焼いてもらうことにしてある。七面鳥の肉を柔らかくするには殺す前日にピンガを飲ませる。また、ピンガを飲ませると、血をぬくのに首を絞め ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(211)

 ときには冒険心をおこし、塀と車道の間の歩道まで出て行った。庭には砕きとうもろこしを食べる七面鳥がいて、子どものちょっかいに応える。二人は「ピイルウ(七面鳥のこと、ペルーという)」と声をそろえて呼ぶと、「グル、グル、グル」と気持ちわるい赤い何重もの顎肉を震わせながら返事をした。何回も何回もそれをくり返したが、飽きるのは七面鳥では ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(210)

 けれども正輝はセナドール・フラッケル街の住民の探索をつづけた。オリエンテ洗濯店から少し行ったところに、セイミツの妹、マリキニァの美容院があった。店の名は「サントアンドレ美容院」という。そこには妹のアウロウラや義姉も働いていた。正輝はタバチンガ時代から稲嶺盛一の娘たちを知っている。パウケイマド農場を離れてすでに15年もたち、みん ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(209)

 台所には出始めたばかりの使いやすく便利だが、値段のはるフィエル社のほうろう製の食器棚、そして、応接間には日本人家庭ではあまり目にしない肘掛け椅子がおいてあった。客を楽しませるために、ラジオ受信機に接続した卓上レコード・プレーアーがあった。プレーヤーの前面には音の調和を示す光が緑色に光っていた。高級雑誌の広告に出たこのラジオプレ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(208)

 まず、正輝は隣人や同業者と顔見知りになろうと考えた。隣近所の人はみんなマニール氏の借家人だった。そのあと、中心地に向って歩いていくと、200メートルほど先に洗濯店を見つけた。「オリエンテ洗濯店」という沖縄出身の上原という人の店だ。自己紹介すると、上原氏は自分の店や設備品を見せるという。幸いなことに正輝はそれほど嫉妬深くなかった ...

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