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文芸

自分史=私のシベリア抑留記=谷口 範之=(59)

 この伐採はあの将校の個人の商売で、賃金を払わなくてよい捕虜を使って、切り出した材木を売り、儲けていたことが帰りの話題になった。通訳がばらしてくれたのだ。だからカンボーイは私たちの怠慢を見ぬふりをしたのだ。収容所に帰りついてみると、広場の一隅に舞台が出来ていた。日曜日毎に演芸会を催すことになったという。捕虜生活が長くなるにつれて ...

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自分史=私のシベリア抑留記=谷口 範之=(58)

 大八車二台に食糧を積み、交替で荷車を引きながら、日盛りの小峠を越えた。夕方着いた伐採地は、幅五mの川の傍で川の両側には低い山並みが押し寄せている。すでに他の伐採班が従事した後であった。  宿舎は川の傍の砂地に、細長い三角テントが設営されていてその数は六つ。内部には囲炉裏風の焚火をする囲いが設けてある。同宿は五人。前職が刑事、す ...

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ピンドラーマ=10月号

 コジロー出版のブラジル情報誌「ピンドラーマ」10月号が出版された。  「美人を作るレストラン&カフェ」では健康志向のレストランやナラ・ラーメンのヴィーガンラーメンなどを紹介。  また、好評連載中の「ぐるめうぉっちゃー」「ブラジル社会レポート」のほか、「ポルトガル語のワンポイントレッスン」などグルメ、イベント、求人情報を掲載。 ...

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自分史=私のシベリア抑留記=谷口 範之=(57)

 私はすでに正夢を体験している。あの夢の続きの最後は、わが家に帰えりついて父母にあっている。だから帰還は実現するはずである。死ぬはずはないと強く自分に言い聞かした。  下痢は一日一回程度におさまった。腹痛は全くなくなり、軟便になった日に、元の宿舎へ独断で帰った。   一〇、林田さんと遭う    病舎へ行く前の宿舎に戻ってみると、 ...

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『日本事情豆知識』出版=日本の生活に密着した文化紹介

西澤さん、栗原さん、菊池博士

 日本文化を日ポ両語で紹介する『日本事情豆知識』(グラフィカ・パウロス出版)が出版された。全75ページ、40レ。500冊。  翻訳家の栗原章子さん、日伯文化連盟(アリアンサ)で日語教師を務める西澤紘子さん、サンパウロ大学日本文化研究所の菊池渡所長が執筆・編集を行なった。  同書では日本の迷信、血液型、ランキング、餞別など生活に密 ...

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自分史=私のシベリア抑留記=谷口 範之=(56)

  九、天罰覿面  欲の皮が突っ張って、その日の夕方から下痢が始まった。天罰覿面とはこのことか。下腹が痛み便所通いの回数が増えていく。薄粥に慣れきっている胃袋が、だしぬけに固い飯を飯盒二杯と炒りトウモロコシを、一度に送り込まれて驚き拒絶反応を起こしたのだ。  幸い宿舎のすぐ隣が共同便所で助かった。三日目の夕方、便所に行こうとして ...

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自分史=私のシベリア抑留記=谷口 範之=(55)

 先日の薪採りで推測した通りであった。噂では五千人は収容されていると言うことであったが、噂ほど当てにならないものはない。  見習い士官の服装をした青年がでてきた。 「ソ連軍の命令により、一日当たり二コ分隊の人員で、鉱石採取の応援をすることになりました。右翼の列から三〇人編成をし、今日から作業に行きます」  みんな騒然となった。 ...

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自分史=私のシベリア抑留記=谷口 範之=(54)

 毎日一〇数人か三〇人ぐらい、死んでいると専らの噂である。ラーゲリで奴隷以下の家畜のように扱われ、衰えて病弱者になった。そして命は取り止めたが役に立たないと言うことで、北朝鮮まで来たものの病が重くなって息を引き取る。無残であった。患者を診察している軍医の表情には、憐憫の表情は浮んでいなかった。  モルドイ村の病院に派遣されてきた ...

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自分史=私のシベリア抑留記=谷口 範之=(53)

 そんな彼はいかにも手に負えない兵隊に思えたが、こうして身近に接していると、意外にも好人物であることが分かってきた。一見ぎょろ目で髭は濃く、取り付きにくい感じなのだが、たまに冗談を飛ばしたりして、いつとはなしに仲良く行動を共にしていた。  保坂さんは志願兵仕上がりの伍長で、モルドイ村から伐採に応募した時の班長であった。温和しい人 ...

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自分史=私のシベリア抑留記=谷口 範之=(52)

  三、収容所(日本窒素K・Kの社宅街)  間もなく有刺鉄線を張り巡らした収容所に着いた。監視塔は見当たらない。周囲は山で囲まれている。日暮れてきた。日本窒素の社宅街を収容所にしているという。 「社宅は満杯だから、適当に寝場所を探してくれ」  と、触れがきた。  この頃になると階級意識はすっかりなくなり××君とか××さん、等と呼 ...

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