文芸
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自分史=私のシベリア抑留記=谷口 範之=(2)
夢は一転して、果てしなく枯草がひろがる荒涼とした冬景色の平原に、私は佇んでいた。二転した夢は、見知らぬ三、四人の白人が、冷えびえとした部屋でソファに腰をおろして、何事か話し合っていた。さらに三転した
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自分史=私のシベリア抑留記=谷口 範之=(1)
第一章 一度だけ見た正夢(一九九四年一〇月) 一、死の淵を覗く 風土病にかかり高熱と下痢のために入院して、二ヵ月が過ぎようとしていた。 夕方、六人収容の病室から向いの一室に移された。私だけであ
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「日系文学」58号刊行=武本文学賞の受賞作掲載
『ブラジル日系文学』第58号(発行者=武本憲二、編集者=中田みちよ)が3月に発行された。 今号は第35回武本文学賞特集。小説、俳句、短歌、翻訳の4部門の入選作品が紹介されている。また、ポ語頁では第
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どこから来たの=大門千夏=(102)
一九六三年、神戸港を出発しました。(あれから五〇数年経った今頃になって、両親には大変な心配をかけた、親不孝したと気がついて申し訳ない思いをしています。)西回りの船を選び、あちこち寄港のたびに観光して
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どこから来たの=大門千夏=(101)
夫の好きな野の花…カタバミが、コップの中で小さく震えていた。 曲は静まり返った巨大な遺跡中に響き渡り、隅々にまで緩やかに流れ、そして灰色の雲を突き抜け青い空に向かって、宇宙に向かって何時までも消え
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どこから来たの=大門千夏=(100)
何年たっても同じ状態が続いた。子供達が、「うちの母はね、音楽が鳴りだすと血相を変えて怒るの、本気で怒るのよ、あんな人見た事ない」と話している。かといって日々の生活に別段困る事もなく、以前と同じように
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どこから来たの=大門千夏=(99)
夜、山田さんに食事をごちそうになる。彼もこの国に遊びにきて女性に捕まった一人である。どうしてこんなに簡単に沈没してしまうのだろうか? フィリピンに観光に来て帰る日、土産物屋をのぞいたらかわいい娘がい
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どこから来たの=大門千夏=(98)
彼は日本の大手の建築会社に務めていた事、ほとんど世界をまたにかけての仕事で外国生活の方が長かった事。「定年間際、アフリカで駐在員をしていた時、家内が急死しまして私一人になってしまいました。日本は住み
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どこから来たの=大門千夏=(97)
午後から博物館に行ったがここにも何もない。こんなに文明文化のない国を見たのは初めてだ。 しかし、考えてみると一六世紀から三三〇年間スペインの植民地になり、其のあと五〇年間アメリカの植民地になった。
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どこから来たの=大門千夏=(96)
我ながら情けないとは思うけど、ウラシマ太郎は故郷が恋しくなってきたが、私は孤独が恋しくなってきた。 一人になりたい。一人で静かに食事をしたい。これ以上、大勢と一緒にいたくない。そのためにはこのクス