文芸
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道のない道=村上尚子=(2)
又、女性の中には、精神的に参っている人が多く、私に馴染んでくると、身の上話をしたい女性が増えた。しかし、治療中に喋られると、私が集中出来なくて大変困る。適当に聞いとけばよかろうと思うだろうが、話して
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道のない道=村上尚子=(77)
さっそく日系の新聞に広告を出すと、初めは一日に一人来たり、来なかったりであった。しかし、この始めて来る客こそ、私がこれから食べて行けるかどうか、勝負がかかっている。その客が次にも来てくれるかどうかは
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道のない道=村上尚子=(36)
そうこうする内、人に貸していたアパートが空いたので、そこへ移った。色々、身辺の整理も終わった頃、数冊の私の日記帳が出て来た。特に、ここ一年間の日記は、癌病の父の介護、その闘いの日々であった。分刻みの
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道のない道=村上尚子=(75)
私はそのとき、何か一瞬にして肩から覆い被さったものが取れた。父は、空の便器を引き寄せ、その中へ手を入れては、何かをつまみ出して、口に入れている……父の頭では、何か食べ物が入っているらしい。これを見て
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道のない道=村上尚子=(74)
彼の体全体から、万感の思いがいっぱいに広がっているのが、私にも伝わる……父は、二個目を口に持って行った。少しすると、急にむせ始めて、トイレに行き、「ゲェー、ゲェー」と言い出したのだ! 私は父の背を「
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道のない道=村上尚子=(73)
「尚子、ちょっとそこへ座れ」 ある日、父が碁を並べながら私を呼んだ。 「オレの相手をして打ってみろ」 いつも家の中では、碁を打つ相手が居ない父。ウムを言わせない口調で命令した。 「ハイ……」 あ
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道のない道=村上尚子=(72)
この日、父は車庫の屋根に登っていた。その近くに居た私のすぐ側で「ドサッ!」という音と共に、父が落ちてきた。車庫といっても二メートル以上の高さである。とっさに見上げると、屋根が破れて、ぽっかり穴が開い
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道のない道=村上尚子=(71)
もう一匹のタロの方は、大人しくて、父が叩くのを見たことがない。あの大きなタロは、一日中、短い鎖につながれて、小屋の周りに立ち、退屈そうに眺めている。今まで、誰一人散歩にも連れ出してやっていないのは想
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道のない道=村上尚子=(70)
父は母屋で寝起きしている。あと二匹の犬がいる。一匹はシェパード、もう一匹は人間を四つんばいにしたより大きな、茶色の優しい犬である。一応これで、犬も入れて家族が揃い、この家の生活がスタートした。私は、
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道のない道=村上尚子=(69)
町枝に対する返事のとき私が強調したことは、私がいかに亭主関白で、タツヨに対して、良い夫でなかったとしても、タツヨの立場に立って私を責めることはない、何かお前は忘れていることはないか。それはタツヨは、