来る2017年は、江戸幕府が政権を朝廷に返上した「大政奉還」からちょうど150周年の節目――。 サンパウロ青年図書館とニッケイ新聞は14日、『日本文化(Cultura Japonesa)』の第4巻を刊行した。同書は毎週土曜日に好評連載中の「国際派日本人養成講座」の内容を中心に、日本独自の精神性や文化、歴史を日ポ両語で紹介する ...
続きを読む »文芸
道のない道=村上尚子=(50)
そんなある日、思ってもみない人間がやってきた。あの小料理屋のばあさんである。 「あたしゃあ、あそこは辞めました。ここで私も働かせてもらえんでっしゃろか」 まるで親戚の家にでも、やって来たような顔。いくら女っ気のない呑み屋だと言っても…… でも一緒に働くことにした。ばあさんは、狭いカウンターの中で、昔からそこに居るような顔で ...
続きを読む »道のない道=村上尚子=(49)
が、私の魂が踊っている。これほどの活力が、どこから湧いてくるのか…… バロン・デ・イグアッペ通りに、気に入った場所を見つけた。中国人のもので、貸し出していた。 私とこの女主人は、ポルトガル語がまるで駄目、筆談ということになった。私は僅か知っている漢字を、数個並べるだけ。ごたごた要らない文字が無いだけ、お互いよく分かった。私が ...
続きを読む »道のない道=村上尚子=(48)
隣の寿司屋と女将は、大変親しく付き合っている。四才の一人息子も、あどけない顔をして、女将の店に入りびたり、頭を撫でられていた。 ある日、この子が竹竿を持ち込んで来て、客の頭を叩いて回り始めた。女将は見ているだけ。食事中の客も、黙って叩かれている。私は、これはいくらなんでも叱らないと、と思って、 「だめよ!」 と言った。その声 ...
続きを読む »道のない道=村上尚子=(47)
ところが、そこの社長の任期が終わり、次の社長がその家に入って来た。それが、あの叱りつけた人であったとのこと。 前社長の話に戻るが、トイレで用を足しても水も流していない。頭にきたばあさんは、紙に大きな字で「用を足したら水を流すこと」と、トイレに貼り付けた。社長の他は誰もいないこのトイレにー 息子というのが休暇を取り、アメリカ ...
続きを読む »道のない道=村上尚子=(46)
また、食堂の経営者同士で揉め事が起きる。すると、わざわざクリチーバからやって来て、丸く治めてしまう。何か昔聞いたどこかの親分のような、気風の良さと、人情を持っている男である。 人情といえば、こんな話もしていた。彼のファゼンダの近くに、猫を捨てる人がいる。それで洋介はその猫に、毎日餌を与えていた。ところがその辺は、猫を捨てやす ...
続きを読む »道のない道=村上尚子=(45)
「ヤクザではないな」と判断ができた。 彼は、食事を注文してあるらしく、その間、私たちに話しかけてきた。ボリウムのある、テキパキした声。 「いつから、ここに入ったの?」 ということは、十名の女の顔はみな知っている、常連ということになる。 「数ヶ月前です」 「まだちょっとやなあ、もう慣れたか?」 「はい……」 「うん、うん、…… ...
続きを読む »道のない道=村上尚子=(44)
こうすれば、客とのつながりが出来る。おばさんの戦略である。彼女は人懐っこい笑顔で、階下の一室に品物を広げている。 私も先月買った分の金を、部屋に取りに戻った。ない! 鏡台の下へ洋服代として突っ込んでいた金が…… この部屋の鍵を持っているのは、N子だけである。咄嗟に父の言葉を思い出していた。N子にやられた! 他の仲間にこのこ ...
続きを読む »道のない道=村上尚子=(43)
といっても、それっきりで、話題を持たない私は、やはり「枯れ木も……」の存在であった。しかし他の女たちも大同小異と思える。なのに近頃のマダムは私にだけ冷たい。それも段々、度を超えてきた。私はやっとあることに気付いた。 よく観察していると、大抵の女にはパトロンというものがついていた。その中でも「花園」をよく利用してくれるパトロン ...
続きを読む »道のない道=村上尚子=(42)
私の周りの客へ、三―四回もお酌したり、ジュースのお代わり等をしたら、後は客が帰るまで待つ。客たちが立ち上がったら、靴を揃えてあげる。そして彼らが引き上げ始めると、階下の玄関まで、みなで見送る。これで終りだ。手の空いた私たちは、女ばかり集まる控え室へ戻って、お喋りをする。 ひと段落すると、私は胸に手を当てる。そこには、里子の髪 ...
続きを読む »