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文芸

道のない道=村上尚子=(13)

 さて、茂夫が一時身を寄せていた,川中家の説明をしたい。  半年前、同県人ということで食事に招待されたのだ。四キロメートル離れている。おじさん(七十歳)、おばさん(五十五歳)、娘の静加(十九歳)、息子の友夫(二十二歳)、それに同居の光夫(二十ニ歳)。彼らは、コーヒー園の手入れの傍ら、もうとっくに自給自足をやっている。家の回りは、 ...

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ニッケイ俳壇(909)=富重久子 選

サンパウロ  林とみ代

指揮棒に合はぬ合唱百千鳥

【「合唱」、多くの人と声を揃えて歌うのは実に楽しく、またよい歌曲の合唱を聴くのも楽しいものである。
 この句の様に、楽譜を見るのにとらわれて指揮棒に合わないということはよくある事。それにしても季語の「百千鳥」がユーモアも交えたよい選択の佳句である】

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道のない道=村上尚子=(12)

 それから又、意識が途絶えた。後で知ったことだが産後の胎盤が、体から剥れず、大出血となったのだそうだ。  気が付いた時、私は、ジープの窓辺に座らされていた。きっと家族がたくさん乗り込んで、私を横にさせる空間がなかったのだろう。この時は、そんなことさえ考えることも出来なくて、朦朧としていた。  目を外に向けると、並木がピュン! ピ ...

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道のない道=村上尚子=(11)

     難 産  この日も臨月の私は、焼けつくような日差しの中、切り倒してある大木を、移動させようとしていた。大木の両端に鎖の輪をつけて、その鎖へ棒を通し弟と二人で担いでいた。渾身の力で持ち上げて、数歩行くと急に腹痛がして、しゃがみ込んでしまった。抱え込まれて室の中に寝かされた私に、母は落ち着いた物腰である。 「陣痛が、始まっ ...

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道のない道=村上尚子=(10)

 ある日のこと。  保明が、裏の原始林へ狩のため入っていった。彼は二時間くらいして戻って来た。弟の手には獲物は無く、ぐったりとしたタロが抱き抱えられている。タロの息はもうなかった…… タロとは、家で飼っていた大きな犬の名前である。おとなしい目をして、みんなに遠慮勝ちに付いて回っていた。うす茶色の短い毛の彼は、この日も弟に寄り添っ ...

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道のない道=村上尚子=(9)

 なので、その辺の男でも大抵三人も、女を持っているとのことである。  話は戻る。  その店での買い物は、ツケが利く。経営者の、ジョンソンが肩代わりをしている。二年後に、私たちが受け取るはずの、仕事賃から差し引いて、精算されることになっている。なので、現金の顔も見たことがない。  この食料の買い入れは、馬に乗って行く。これは弟の受 ...

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道のない道=村上尚子=(8)

 この半年間、忘れようとて忘れられない母の悲鳴を、又聞いてしまった。とっさに私は、エンシャーダを投げ捨てた。そして走った。そのただならない行動に、茂夫は異常を感じたらしく、自分も手からエンシャーダを放して、一緒に走った。気は急くが、家まではあまりにも距離がある。たどり着いた時も、母の悲鳴は続いていた。  父が家の裏の壁に母を押し ...

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第31回リオ五輪の大成功=サンパウロ 平間浩二

 オリンピックが近づくにつれて、世界各地で過激派組織ISが無差別テロを起こしていた。7月14日のフランス独立記念日には、単独によるトラックテロ事件で多くの痛ましい犠牲者が出た。  ブラジルでも、8月5日の五輪開幕を狙ったテロを計画した容疑者10人が逮捕された。この報道に接した時、遂にブラジルでもイスラム過激派組織ISの影響で国内 ...

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ニッケイ歌壇(522)=上妻博彦 選

サンパウロ  梅崎嘉明

鉄人と名のある大人(うし)は以外なる好紳士にて吾が名を呼べり
面識のなき吾の名覚えいる知識豊かなる大人(うし)とは知れり
緑こき庭園にして広大な建物のあり図書館と聞く
管理人のなき図書館にて盗む者あるとも良しと寛大なる弁
歌会に閲覧室の借用を乞えば気安く名刺くださる

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ニッケイ俳壇(908)=星野瞳 選

アリアンサ  新津稚鴎

冬耕や錆びてキコキコ云ふ耕車
背広着し案山子の哀れ見て通る
故国訪い逢えざりし友の賀状来る
河へだて牛啼き交わす夕立晴
色褪せし旱の蝶のとぶばかり

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