文芸

  • 道のない道=村上尚子=(7)

     わき道にそれるが、とうもろこしでの思い出がある。  その時から二年過ぎた頃である。弟は独学でスペイン語が何とか解りはじめていた。なので、こんな人里はなれた所にも、細々とした情報は入ってきていた。どう

  • 道のない道=村上尚子=(6)

     あの愕きと恐ろしさは忘れられない。犬と全く違うのはいいとして、あんなものが私の体の中に入るはずがない。恐怖と緊張に目をつぶった。その時である。深刻な茂夫の声がした。 「おかしいなあ……ここだと思うけ

  • 道のない道=村上尚子=(5)

     ところで、この地区には監督という者がいる。月に一度くらい馬に乗って、仕事の進み具合を見にくる。やかましい小言は何も言わずに、十五分もいたら帰って行く。  父に期待する者はいない。だれも口にこそ出さな

  • 道のない道=村上尚子=(4)

     その頃、茂夫とは、軽く付き合ってはいた。けれども、結婚など考えてもいなかった。当時の多くの者は、父親の意見には、従わなければならなかった。私の父であれば、絶対服従である。それでも強く抵抗した。 「い

  • ニッケイ俳壇(907)=富重久子 選

    サンパウロ  広田ユキ

    からからと音して浅蜊計らるる

    【時々魚屋に浅蜊があると買ってくるが、若い魚屋さんは篭に浅蜊を掬って秤の入れ物に威勢よくこぼし入れ、この俳句のように

  • ニッケイ歌壇(521)=上妻博彦 選

    サンパウロ  梅崎嘉明

    基地移転くり返し政府に訴える翁長知事の執念は良し
    基地のため繰り返さるる暴行に県民の怒り思いやるべし
    よそくにに寄与融資の金なれば沖縄基地

  • ニッケイ俳壇(906)=星野瞳 

    アリアンサ  新津稚鴎

    沈み行く月に妻恋鹿の鳴く
    横書きの文親しめず秋灯下
    生え広がり咲き広がりて秋桜
    引力に耐えて暮れゆくパイナかな

  • 道のない道=村上尚子=(3)

     公園は少し歩いたところだった。そして公園にある建物の陰に私を連れて行った。男は、静かに私を抱き寄せて、接吻した。生まれて始めての接吻は、気持ちが悪い。そのうち、抱きしめた片方の手を、私の胸に差し入れ

  • ニッケイ俳壇(905)=富重久子 選

    サンカルロス  富岡絹子

    顔洗ふ猫の朝(あした)や春隣

    【猫を飼っていると、よくこの句のような猫の朝の仕種を見るが、縁側や出窓の日当たりのよいところで、丹念に顔を

  • 道のない道=村上尚子=(2)

         虐  待  その手をついている父が、母へどのようなことをしてきたのか、話すには勇気がいる…… 日本でのことである。 「ひいーッ!」  いつものように、母の悲鳴にハッ!とすると、父が野球のバッ

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