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どこから来たの=大門千夏

どこから来たの=大門千夏=(92)

 その時、フット気がついた。  おや! この人たち体臭がないではないか! こんなにたくさんのインド人が乗っている。この暑さ。この汗。  サンパウロではエレベーターに乗っていると、西洋人の体臭に気分を悪くすることが度々ある。どんなにシャワーを浴びても体の中から出てくる匂いはどうしようもない。 それなのに、このインド人達は不愉快なに ...

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どこから来たの=大門千夏=(91)

 なんともかんとも「ああ、これがインド」と了解する。  大方の労働者は貧しい。体型をみてもやせて痩せて、細い脚に皮膚が張り付いている「骨かわ筋衛門」ばかり。私も痩せてはいるが、ここにいると気にならない位、皆、脂肪も筋肉さえも見えないほど痩せている。  デーリーのような都会はまだしも、田舎に行くと太った人に出会うことはまずない。こ ...

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どこから来たの=大門千夏=(90)

 「ヨーロッパはどこの国が一番気に入ったの?」と聞くと「どこもかしこも美しい、きれい、清潔、豊か、金持ち、そして歴史があり文化あり教育あり総て言うことなし…と立て続けに言って…でも人間はどうなんだろう? しかし私はヨーロッパには住みたくない。……どうしてかしら?」と最後は独り言を言った。  別れ際「さようなら鈴木さん」というとび ...

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どこから来たの=大門千夏=(89)

 固太りの体格に厚かましい面構え、威張った歩きかた、長い髪をひっ詰めて頂上近くで丸めてヒモで括り、化粧気はなく、着ているものは「みんなもらいもの」という感じでチグハグ。この「おばさん」は五十歳くらいかな、と思っていると、すれ違いざまに「日本人の方ですか」と私に元気な声をかけてきた。そうですと言うと「やっぱりねー」あはははと人懐こ ...

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どこから来たの=大門千夏=(88)

 「エッ」吉田君はやっと真面目な顔になってきた。  「日本人学校は月謝が高いから近所のお坊さんに習ったといったけど、五〇〇ドルのルビーを買ってくれる親がいてどうして高いの? それにお坊様に習ったくらいでは、あれだけ日本語が流暢に話せるようにはならないわ、よーく考えてごらん。何もかもおかしいと思わない? あの封筒の中――あの中は本 ...

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どこから来たの=大門千夏=(87)

 私に買えなかったあのルビーを、この若い娘がつけてオートバイに乗って郵便局に向かう。朝っぱらから。なんだか小娘に馬鹿にされたような気分になる。これって嫉妬心かな?  しかしこの国で五〇〇ドルと言うと大変な金額である。私たちはこのサイカーの運転手を一日中雇って、自転車の主はその細い足で一日中ペダルをこいで四ドル。それでも彼はめった ...

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どこから来たの=大門千夏=(86)

 「お二人は観光ですか?」流暢な日本語で話しかけてきた。抑用にぎこちなさは全くない。  「ええ王宮を見に来ました」  「あら残念ですね、今、工事のために閉まっていますよ」首をちょっとかしげて気の毒そうに言う。  「いやァ、それは残念。工事はいつ終わるかな?」  「さァわかりませんね。何年もかかるでしょう」優しい笑顔で答える。   ...

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どこから来たの=大門千夏=(85)

 高原の陽は早々と陰り暮れてゆく。空は鉛色となって寒さを増し、霧が山々を覆い、町には夕闇が迫っていた。そして風交じりの小雨が今日も容赦なく顔に当り心まで冷え冷えとして後悔自責の念がひろがって行く。もうこれで会えない。明日は出発なのだ。  あれから一年経つ。  「ケチな日本人!」あの子の声が聞こえてくる。  「アイ・ノー・ハッピイ ...

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どこから来たの=大門千夏=(84)

 仕方なく五万ドン札二枚を出すと彼女は黙って受取り、黙って品物を手渡した。そしてお釣りをくれる為に小さな巾着を開けたが、そこには二〇〇〇ドン(日本円で一〇円)のお札しか入っていなかった。これで何が買えるのだろうか。私は小さいお金を揃えて七万ドンきっちり払った。  陽が暮れ初めると、高原の冷たい風が霧雨をもたらした。雨季がまだ続い ...

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どこから来たの=大門千夏=(83)

 モン族の女性は藍染のシャツの袖口に幅広く刺繍がしてあり、襟、スカートのベルトにも細かい刺繍がしてある服を着ている。その上、背中には一〇㎝四方くらいの特別に目の細かい刺繍の布が縫い付けてある。家族によって模様が決まっているようで、日本人の着物に付ける紋のようだ。  頭には藍染の筒型帽子。足にはゲートルのようにこれも藍染の布を巻い ...

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