「結婚相手よ。これから食事に行くの、今から出かけるけどごめんね…あの人ね、オ・オ・ガ・ネ・モ・チ」と言っていたずらそうにウインクした。 ハンドバックから口紅を取り出すと、売り物の鏡の前でもう一度化粧直しをしてソワソワと使用人に二言三言話してから、「じゃあね、また来てね」と言って出口の方に向かった。 とびらの前で振り返って、店 ...
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どこから来たの=大門千夏=(61)
皺もなく肌がつやつやして、長いまつげに青い目、形の良い肉付の良い唇、キュッとあがった口角、背中まであるカールした金髪、髪の色だけが変わった。時計が止まったように美しさも止まったままだ。 店の商品の話になると急に骨董屋の厳しい女主の顔にかえり、一つ一つ説明をしてくれて、其のうえアメリカの骨董業界の話までしてくれて私を楽しませて ...
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一人は最高 小雨降る日、ジャルジン区を歩いていたら、新しく出来た骨董店を見つけた。ショーウィンドウにはミッドセンチュリーと言われる時代の椅子と小さな机が飾ってある。 このミッドセンチュリーとは「世紀の真ん中」という意味で、第二次世界大戦後の一〇?二〇年間に、アメリカ、北欧などのデザイナーによって、戦争中に開発されたプラスチ ...
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が、又ソビエト連邦に併合され、一九八九年八月、独立運動の一環として三国の人々が手をつなぎ、六〇〇㎞以上の「人間の鎖」を作った(別名「バルトの道」とも呼ばれている)。エストニア人七〇万人、ラトビア人五〇万人、リトアニア人一〇〇万人が参加したといわれている。一九九一年、ようやく三国揃って独立を果たした。 アレキサンダー氏は私を招 ...
続きを読む »どこから来たの=大門千夏=(58)
しばらくすると別の骨董屋が興奮してやって来た。息を切らすようにして、「ジョーナスが売った皿、今ニューヨークで一万六〇〇〇ドルで売ってるって。あの皿、君が売ったんだって? いくら儲けたんだ? エッたったの三〇〇ドル! バカ! 何やっとるかーバッカアーー真面目に勉強せんか!」 店の奥で終日、本を読んでいる暇な骨董屋はなんていいん ...
続きを読む »どこから来たの=大門千夏=(57)
ショーウィンドウの中を見ていると、時には何だろうと分からない物がある。「おじさーん」と呼んでみるが、主は本を読みながらチロリと上目使いにこちらを見て、すぐにまた本に目を移してしまう。 しかしこれは子供だからでもないらしい。 大人のお客が来て「すみませーん。これはー」と問いかけてもチロリ。聞こえないふりをして読書している。 ...
続きを読む »どこから来たの=大門千夏=(56)
あっけにとられている私の目の前を臆することなく男の傍に直行した。小さいが小太りのがっちりとした体格で、彼女の全財産なのか、まん丸く膨らんだスーパーの袋を右の腕に六~七個、左腕にも同じように六~七個もって、ワンピースの上にほつれたカーデガン、この寒いのに裸足にゴムぞうり。埃まみれの髪にオレンジ色の口紅が暗い電灯の下で華やいで見え ...
続きを読む »どこから来たの=大門千夏=(55)
薄汚い男たちが手に手にコップを持ち、あるいはピンガ(サトウキビからつくる蒸留酒)の瓶を持ってじっと車を見ている。酒飲みの最中だったのだ。金曜日の夜はサラリーマンと同じ、気分が解放され同僚どもが集まって酒飲み会をするのだろうか。さしづめ今夜は「乞食の宴会日」か。 おそるおそる車を降りると、途端にホホを刺すほどの冷たさが襲ってき ...
続きを読む »どこから来たの=大門千夏=(54)
「あれほどかわいがって育てたのに私を捨てて行った」と死ぬまでこの言葉をくりかえし、私のしたことを許そうとはしなかった。 父が亡くなってからやっと自分の来し方を反省し、母への悔恨の気持ち、それから長女の責任も感じて毎年母を訪ねた。 手を変え品を変え母の心の慰めになるように努力してきたが、必ずいやみを言われ、時には意味も分から ...
続きを読む »どこから来たの=大門千夏=(53)
その上、母の濃厚な愛情はいささかうっとおしかった。その分、妹たちは愛情不足を募らせていたわけだ。 親に一言も文句を言ったことはないが、心の中では反抗心が渦巻いていて、いつか知人のいない誰からも強制も束縛もされない自由を満喫できる街に行く。小学生の時から一人で決めていた。少し大きくなると地図を広げて、広島から遠いところ…そうだ ...
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