どこから来たの=大門千夏

  • どこから来たの=大門千夏=(32)

     「あらっ! んまあ、あなた」母はびっくりして、次の言葉が出ない。  「良い奴だった。一緒に酒を飲んだ」ニコニコしてうれしそうに話す父。 「えっ、病院でお酒を飲んだのですか」 「あさって退院すると言う

  • どこから来たの=大門千夏=(31)

     それもそのはず、この男が「やくざ」だという事が間もなくわかったのだ。前にもこの手で入院してきた同じ男だと看護婦がそっと教えてくれた。二人のチンピラが、常に部屋の出入り口を見張っているそうだ。  警察

  • どこから来たの=大門千夏=(30)

     彼らは休憩気分で寄り、お茶を飲んだり時には父のふるまうビールを飲んだり、無駄話を一時して父に何かを売りつけると帰ってゆく。文房具、台所用品、カミソリ、靴ベラ、時にはおもちゃ、裁縫用具など、こまごまし

  • どこから来たの=大門千夏=(29)

     バールの主人は毎回食べ物をあげるだけで追い立てるようなことはしない。心ひろい人なのだ。  そのうちマットをくれる人が現れた。待てば海路の日和かな。じっとしているだけで必要なものがなんでも集まるではな

  • どこから来たの=大門千夏=(28)

     この家の母親が園長先生で、大学を出たばかりの大層美しい娘が手伝っていた。ご主人は影が薄くて時折見かけるくらいだった。そしておばあちゃんもいた。もうとっくに八〇歳を超えていて、家の前のベランダで、小さ

  • どこから来たの=大門千夏=(27)

     これを左手の平に置くと、その端を右手でつまみ、スルスルーッと引っ張った。ペーパーはくるくると左手の中で回って、右手は頭より高くまで上がった。まるで運動会の旗手のようだ。大分の長さになると丁寧に根元を

  • どこから来たの=大門千夏=(26)

     その時、あれ! 懐炉が二つになった! お腹の上に張り付いたようにもう一つ並んだ。よほど寒気がしているんだわ、二つもつけて。お気の毒に。長居してごめんなさいね。 家に帰ってしばらくして気が付いた。  

  • どこから来たの=大門千夏=(25)

     それからというもの、度々広島県人会に顔を出しておしゃべりした。いかにも善良そうな笑顔の良いおじさんでコロニアの昔話が得意で、なんでもご存じだった。  あるとき、五コント札を小さくしたいけど、どうした

  • どこから来たの=大門千夏=(24)

     胸がドキドキ。  遠巻きにそっと鍋から離れると、あとは、後ろも見ないで洗面所に駆け込んだ。気持ち悪く吐き気までする。あのしわしわの手がおっかけてくるようで、しっかりと鍵をかけて鍋を触った手をごしごし

  • どこから来たの=大門千夏=(23)

    「あんた達はみんなうちのお客さんよ。ちゃんと払ったんだもの、すごい事だね」と言うと、頬を緩め穏やかな目をして「チアありがとう」とお礼まで言ってくれた。  どこにでもいるごく普通の男の子達なのだ。思わず

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