中島宏著『クリスト・レイ』
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中島宏著『クリスト・レイ』第21話
「ところで教会の話ですけど、いったいこれは、どういう教会なのですか。町にあるキリスト教の普通のカトリックの教会とは大分違うと思いますが」 「そうそう、その話を今日はするはずだったわね。話が横道に逸れて
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中島宏著『クリスト・レイ』第20話
「ということは、アヤにも、友だちのような喋り方でいいということですか。うん、それだったら分かります。でも僕の場合は、日本語でその、友だちと話すような話し方を知らないのです。今まで、丁寧な話し方しか勉強
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中島宏著『クリスト・レイ』第19話
「こんにちわ。大分待たせたかしら。一応、時間通りに来たつもりだけど」 「いえ、アヤ先生、私の方が約束より早く着きましたから。私が待つのは当然です」 「そう、それならいいけど。ところで、どうしょうかしら
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中島宏著『クリスト・レイ』第18話
この日、マルコスは普段着ではなく、一応、訪問着を着て、格好を付けてきている。別に大したことではないが、一応、きれいに洗った格子のシャツに、ベージュ色の木綿のズボンを履いている。牛皮で作った茶色のブー
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中島宏著『クリスト・レイ』第17話
自分にそう言い聞かせつつも、なかなか思い通りにはいかない。困ったものである。 アヤとの約束は、そのような意味での緊張感を伴うものであった。 正直なところ、この時、彼女に対する淡い慕情のようなものが
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中島宏著『クリスト・レイ』第16話
それほどこの教会は、他とは違った佇まいを持ち、不思議な雰囲気を漂わせている。最初は、この教会の秘密を探ろうという目的があったのだが、マルコスは日本語にのめり込んでいったために、そのことは二の次というよ
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中島宏著『クリスト・レイ』第15話
まだ、挫折というものを本格的に経験したことのないこの若者には、そのことがごく自然な形で信じられたのであろう。それだけに、彼は常に努力を怠らなかった。そこがアヤも言う、集中力のすごさに繋がるのかもしれ
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中島宏著『クリスト・レイ』第14話
今までの木造の建物から、本格的なレンガ造りのものに改造するという話が持ち上がり、それが実際に、一九三五年の後半から実施に移されていったのである。 話によるとその教会は、同じカトリックのものながら、日
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中島宏著『クリスト・レイ』第13話
さらにもっと奇妙だったのは、この二人の神父が流暢な日本語を話すという事実であった。細かなところまでは聞き取れなかったが、マルコスにとって、この二人の神父が話す日本語は、どこか品があるような、それでい
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中島宏著『クリスト・レイ』第12話
夏の間は日が長いから、夕刻になってもまだ明るさが残っているが、冬になると黄昏は足早にやって来る。授業が始まる頃はすでに夕闇がすぐそこに迫って来ている。必然、教室はランプを使っての授業ということになる