中島宏著『クリスト・レイ』
-
中島宏著『クリスト・レイ』第11話
学校側は相談した上で、特別に夕方遅くからの授業を始めることにした。これは、マルコスのような生徒たちが他にもいて、彼らも昼間は働いていて時間がないため、勉強したくてもできないという事情があったからであ
-
中島宏著『クリスト・レイ』第10話
この時の、一九三〇代に使われていた日本語の教科書は、当時の日本から持ち込まれたもので、第四期国定教科書としての「尋常小学国語読本」であった。巻一から巻十二までの、十二冊からなる教科書で、巻一は「サイ
-
中島宏著『クリスト・レイ』第9話
その点、エンリッケはまるでそういう目的も持っていなかったし、元々遊び半分というところもあったから、まず、長続きはしないだろうとマルコスは見ていた。案の定、その通りになった。五ヶ月ほど経った頃、仕事の
-
中島宏著『クリスト・レイ』第8話
あるいはこれは、ブラジルに移民したことによって、人々は宗教までも変えて改宗したということなのだろうか。 が、しかし、そのようなことは常識からいっても考えにくい。確かに、自分たちの人生を大きく変えて
-
中島宏著『クリスト・レイ』第7話
日本語学校を見に来たつもりが、この異様な風景に衝撃を受けて、日本語のことは何だか影が薄くなってしまったような感じであった。ただ、そこにいた人々のほとんどすべてが日本人であったことは事実であり、そのた
-
中島宏著『クリスト・レイ』第6話
日本語学校と称する建物は、その広場にあった。木造立ての簡素なもので、やや大きな建物ではあったが、その質はこの辺りの農場の労働者たちが住む家と同じようなものだった。 ただ、マルコスたちの目を引いたの
-
中島宏著『クリスト・レイ』第5話
勉強そのものよりも、学校生活をできるだけエンジョイしたいと考えるタイプだった。その彼が日本語を勉強するというのだから、マルコスは咄嗟にその意図がよく理解できなかった。 「どうして日本語なんだ、エンリ
-
中島宏著『クリスト・レイ』第4話
さらに、利益が上がった余剰金で、もっと奥地の広い土地を購入して行き、それまでには考えられなかったような規模までに増大させた。この頃になると、農業だけにとどまらず、牧畜にも進出していったから、総体的に
-
中島宏著『クリスト・レイ』第3話
限られた世界で、限られた生き方しかしてこなかった人々にとって、この茫漠とした、掴みどころのない大地で新しい生活を築き上げていくことは、彼らのそれまで持っていた価値観や固定観念を、一度かなぐり捨てるよ
-
中島宏著『クリスト・レイ』第2話
一九三〇年代は、世界中からのブラジルへの移民の流れが最盛期を過ぎ、やや、その勢いが衰え始めたという時期に当たっている。 とはいうものの、毎年のように移民としての外国人たちが、後を絶たないという感じ