中島宏著『クリスト・レイ』
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中島宏著『クリスト・レイ』第71話
大成功して故郷に錦を飾るという夢は、少なくとも今までの状況の中では結局、儚い夢となって終わってしまいそうな雰囲気にあった。少なくともそれは、出稼ぎを目的としていた人々にとっては、まことに厳しい現実で
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中島宏著『クリスト・レイ』第70話
これもいってみれば、日本の近代史の中の一コマなのだが、それに翻弄されたのは想像以上に多くの人々であったことは歴史上の事実である。そのような時代の背景があったために、ブラジルへの移民が成立したというこ
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中島宏著『クリスト・レイ』第69話
そこにあるものは、移民としての熱い思いと燃え立つような高揚感であり、それは、世界中からこのブラジルに渡ってくる人々に共通して見られるものであろう。その点に関しては、見かけは違っているものの、その意図
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中島宏著『クリスト・レイ』第68話
プロミッソン マルコス・ラザリーニは、はっきり言って当時の日本移民のことについては、ほとんど何も知らなかったといっていい。日本語を覚え始めるまでは、特に日本に対する関心や興味があったわけでもない。無
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中島宏著『クリスト・レイ』第67話
うーん、これはたしかにアヤが言うように、微妙かつ複雑な問題ですよ。 そうなると、このブラジルに来ても、同じカトリックとはいうものの実際にはそこに、かなりの隔たりがあるということが、現実に分かってく
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中島宏著『クリスト・レイ』第66話
「だけど、なかなかうまくいかなかったということなのかな」 「そうなの、その通りなの。最初はお互いに大いに喜んだのだけど、時間が経っていくうちに、双方にだんだん違和感が生まれていって、意志の疎通もうまく
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中島宏著『クリスト・レイ』第65話
それでもね、マルコス、それでも私たちの先祖はキリスト教を失うことはなかったわ。常に、キリストの像は心の中に生き続けて、それが片時も消えるということはなかったということね。 だからね、私の言いたいの
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中島宏著『クリスト・レイ』第64話
「その辺はちょっと違うわね。それはマルコスの誤解じゃないかしら。誤解という言葉が悪ければ、それは解釈の違いというふうにも言えるわね。つまりね、私が言いたいのは教会というのは絶対的な存在ではなく、最終的
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中島宏著『クリスト・レイ』第63話
「最悪の場合は、この地を離れなければならないことになるかもしれないわね。 この地での生活の基盤が脆いものであれば、いつまでもこの土地にしがみついているわけにもいかないでしょう。その場合はつまり、集団
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中島宏著『クリスト・レイ』第62話
「アヤの場合は、生きていく上で教会の存在というのは大きなものだろうけど、しかし、それに徹することがないとすれば、やはり何か別の道を探さなければならないということになりますね。今のところは問題ないにして