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宿世(すくせ)の縁=松井太郎

宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(27)

「またむずかしい用語を使って、あんたこそ人を馬鹿にして、日ごろわたしを便利な道具ぐらいにしか考えていないのでしょう。ちゃんと分かっていますからね」「それじゃ、おあいこじゃないか、お前はおれを案山子ぐらいにしか思っていないだろう。文学などいくら勉強しても、一文のたしにならないと、お前は言ったが、これでもいくらかの賞金はもらえるらし ...

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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(26)

 ある日のこと、区長さんがきて北山さんが倒れたと知らしてくれた。その朝、コーヒーをすまして車の始動をさせていると、急に気分がわるくなったという、見舞いにいってきた千恵の話ではー奥さんも顔がむくんでいて別人のようだったーという。北山家では老人ふたりが病気になっても、生計にどうということはないにしても、不測の失費にちがいない。太一は ...

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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(25)

 私は孫に玩具を買ってやりました。そこをでてもまだ早かったので、セアザ(中央市場)を見学しました。家では一日はすぐたつのに、このような行楽にはいろいろなところがみられて、一日はながいものです、村の会館についたのは午後の七時でした。五月0日、晴れ、今日もアルファツセきりです。わたしも五時には畑にいます。荷をだしてからは昼食をし、そ ...

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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(24)

 彼女はそれでもこっそりと日記はつけているようであった。太一に見られるのをとても嫌っていたので、サンパウロ市に転居のさい、すべて焼いたか捨てたかにちがいなかったのに、その一冊が残っていた。太一は興味をもってページをめくっていった。字はたしかに下手であったが、そこにはほかの誰でもでない亡妻の仕種のようなものがあった。 日記のなかに ...

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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(23)

 太一はそんな連中とはかかわりはなかったが、金まわりの早いチシャ作りをはじめたのであった。丈二が食料品店を買ってサンパウロ市にでるまでに、R村で二十年ちかくの歳月がながれている。その間に千恵の両親は亡くなっている。奥地で発病した太一はーどうせながくはもたない身体だからーと、覚悟をきめ義父に女房と子供を託するつもりで、この地にうつ ...

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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(22)

 太一は五粁の山道を自転車でバスの始発所までゆき、M市まで出てもらった小切手を銀行に預けた。帰りにはちょっとした贅沢品などをもとめたい余裕が気持ちにういた。その頃から、太一は邦人のバザールにおいてある本棚をのぞいてみるようになった。住まいは草ぶき泥壁の小屋であったが、夕食にはあかるいアラジンの石油ランプの下、家族が食卓をはさんで ...

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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(21)

 その当時、太一の父母は亡くなっていた。干恵の弟に太一の妹がいっている関係で、別れ話にならなかったものの、妹はーそれ見たことかーと冷笑しているようであった。太一はなるべく義父に負担のかからないように気をつかったが、事は急なことだったので一時鶏小屋を改造して住んだ。義父はちかくの地主イタリア系のルイザ奥さんの土地を、一域借地してく ...

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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(20)

 太一は長女が小学校にあがる年令になったので、自分らの環境を考えて、同胞と接触できる地域に住みたいと思った。某植民地で土地を売るという人にあった。地主がすて値だという金額でも、十域となると太一にはまたまた手はだせなかったのである。ところで、世話をしてくれる者があってH村で借地することができた。その村はいわゆる勝ち組の集団地で、借 ...

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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(19)

 後に婆さんはある老人によばれてU町にこすと、息子のジュリョというのが嫁のベネジッタをつれて引き越してきた。そしてすぐに馬に曳かしてやる泥こねの仕事についた。それが夜になると隣にきかすように騒がしいのである。 ある夜、隣の部屋があまりにもきしむので、目ばしこいのと好奇心の人いちばん強い千恵は、耐えきれずに板壁の節目からのぞいてみ ...

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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(18)

 これは彼のひねくれた妄想ではないのを、不具でうまれたつぎの児が、太一夫婦の将来を暗示してくれた。その児は臍の緒がしまっていなかった。乳を吸う力もない虚弱児であった。太一もこれはとても育たないと望みをたったが。そこは親の情として、一度は医者に診せたかった。 ところが、ーお前でも自分の子は可愛いいがーと父からやられた時は、太一の息 ...

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