宿世(すくせ)の縁=松井太郎
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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(7)
死に化粧が巧みだったのか、それとも体力をあまり消耗しないうちに死んだので、見たところ十歳もわかくみえ、老婦人のもつ品のよい美しささえあらわしていた。 けれども太一は一目みたとき、これはもう千恵ではな
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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(6)
千恵は家に戻ってはこず、病院より墓地に運ばれ、遺体安置場で弔問客に会い、永の訣別をすることになった。 太一はどういうものか、父母をはじめ弟妹たちとも縁はうすい。長男なのに家を出たゆえだろう。おなじサ
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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(5)
太一はーえらいことになったーという衝撃もあったが、なるべく考えないようにしていたある予想が、ぱっくりと眼のまえではじけた恐怖につつまれた。事態は急変しているので、太一は廊下をはしって息子夫婦の部屋の
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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(4)
太二はすぐにそれは血便と直感した。それもかなりの量のものが、時間をへて排泄されたものと判断し、さっそく店に電話して息子をよんだ。 入院した千恵は点滴の注入はうけていたが、近日にでも手術をうけられる様
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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(3)
彼の知人のなかにも千恵とおなじ病気のひとがいて、もう十年からインシュリーナを打ちつづけているという。毎日欠かせない注射も、無為の彼にはよい日課になった。というよりは太一の心にあるはずみがついているの
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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(2)
ついの旅になった訪日から帰った母をみて、息子はーママエは背中がかがんできたーとー彼の気づいたことを太一につげたが、それから千恵はしだいに痩せるようになった。医者にかかると、糖尿病と診察されて、こまか
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宿世(すくせ)の縁=松井太郎=(1)
もう一つの連れはどうしたきりぎりす一茶 妻の千恵に先立たれた太一は、命あるものが避けることのできない生死の離別は、世の中の常と理解していても、この度の事はなかなか心底から納得することができず、―女