1946年4月23日のその日、つづけて津波元一、三保來槌、藤本坂末が尋問を受けた。彼らの供述は正輝とおなじようなものだった。臣道聯盟の会員で毎月献金していた。(津波だけが多く5クルゼイロ払っていた)日本の勝利を信じ、暗殺された人を知らず、連盟の指導者とも面識はないと答えた。 たしかにカルドーゾ所長は職務に厳しい人間ではあった ...
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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(157)
その日、サンパウロ州法医学課のジョゼー・リベイロ課長の指名により、アメーリコ・マルコンデースとジュベナル・ハドソン・フェレイラの二人の法医学士が長野すけおの死体を検診した。二人は午後3時に死体解剖を行い、その結果を次のように報告した。「死体は黄色人、ナガノ スケオ、推定36歳、既婚者、職業は洗濯業、日本国籍、出身地や両親不明、 ...
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今はどうか? 何もしなくていい時間がいくらでもある。今までこんな機会は一度だってなかった。だが、今は違う。「牢につながれる」という表現どおり、牢屋に入れられ、いろいろな規則や要求に縛られている。外の世界では「何もしないこと」は選択自由だったが、ここでは義務なのだ。「強制的休息は精神を衰えさせる」と正輝はおもいにふけった。単調な ...
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湯田幾江といっしょに検挙された高林明雄もカルドーゾ署長に同じ日に調れらべられた。36歳で、父は高林信太郎、母はヌイ、臣道聯盟のアララクァーラ支部では一番の知識人だった。ただ一人、高等学校を出ていて、町の日本人の間で「先生」とよばれていた。 1934年に渡伯、サントスからモトゥカ郡の東京植民地に入植し、アララクァーラ市に移った ...
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DOPSにはこの作業の手間を省くため印刷物が用意されてあった。表側には容疑者の「評価調書」と書かれ、証言がなされた日付、証言者のデータが記されていた。この部分はカルドーゾ署長、証言者、公証人が署名するようになっていた。裏側には証人の出席のもとに取られた「訴訟書」と書かれていた。 「訴訟書」作成はカルドーゾ署長が定めた厳しい規則 ...
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DOPSについた次の朝、身分証明と身上鑑定のため三階によばれた。姓名、両親の名前、生年月日、既婚、未婚の身分、職業、国籍、出生地、在伯期間、学歴、住所、検挙日、検挙の理由、宗教などが確認され、指紋がとられた。 調書内容のほとんどが独裁政治の新国家体制下に発布された1938年6月12日の法令第554条に基づくものだった。この法 ...
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4月9日、ヨシオは助け合うという精神をもって、帰途につくマサユキを連れ、アララクァーラ向けの汽車にのった。 ヨシオは房子に大歓迎を受けた。 「あなたがきてくれて、よかった。本当に助かるわ!」 夫の従兄弟を大喜びで迎えいれた。 ヨシオが従兄弟の農園でやる仕事は、自分の家の仕事とあまり変わらなかった。畑を耕し、除草をし、水を ...
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子どもは気が動転したウシの権幕におされ、父親の勾留のことをきちんと話すどころか、説明するのも容易ではなかった。 「カッカン(勝つ)とかマキタン(負ける)とかいうことで…」 沖縄弁で、日本が戦争に勝ったとか、負けたとかでまっ二つに分かれたことを説明しようとした。 「知ってる? 臣道聯盟のこと?」と聞いた。 サンカルロスはアラ ...
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そこからどこに連れていかれるのだろう? どこかの牢屋で忘れられてしまうのだろうか?でも、どこの牢屋なのだろう? いつまでなのだろう? 妊娠6ヵ月の身重で、上が11歳、下が1歳半少し、夫はおらず、他人の手も借りることができない彼女にとって、それはすごい重荷となった。姪の殺害、息子の死という悲劇からそうたっていない彼女に、今度は ...
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マサテル(正輝)という二つの漢字を書いた。はじめの正はたいてい「まさ」と読まれ、臣道聯盟本部で没収されたリストの漢字を読んだ翻訳人は「まさ」と読んだ。ところが、二番目の「ひかる」という意味の漢字は名前に使われた場合、「てる」、「あき」、「とし」、「のぶ」そして、「みつ」と読まれる。どの漢字もはじめの「まさ」に合っている。正輝の ...
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