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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(128)

 日本政府のプロジェットは「八紘一宇」という名のもとに日本一国が世界を司る。「八紘一宇」が実現した暁には世界に平和をもたらすことを彼らは認識していた。  グループが手にする情報は軍事政権の公式発表で、太平洋や他の地域の敵軍の勝利や連合軍の進出はすべて隠蔽されていた。だから、彼らが頭にえがく様相は現実と全くかけ離れたものだ。太平洋 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(127)

 隙間から小鳥が逃げないよう細心の注意を払って手を突っこみ捕まえる。そのあとニコリと微笑む。彼のいちばん気に入りの小鳥の種類はサビア、ズキンマヒワ、キンノジコ(カナリアの一種)テイエテ、アメリカウズラバトなどのように鳴き声のいい小鳥だった。  まだ、幼いのに、小鳥の種類を見分けた。兄や隣の家族の子どもに教えられていた。雄のテイエ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(126)

 それは毎日、果たさなければならない義務だった。いや、毎日ではなかったかもしれないが、子どもたちは懸命にその義務を果たした。日曜日は、楽しみの日だ。学校にいかなくてもいいからだ。両親が朝市に行く日でもあった。だから、両親の監視下におかれることがない。思い切って遊べる。  日曜日でも、家族の習慣で朝、早く起きた。ただし、週日のよう ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(125)

 また、もう一方の西部攻撃隊はニューギニア島の南東に向かった。そこは2年ほど前、珊瑚海、ガダルカナル戦で日本軍がアメリカ軍を破ったところだ。アメリカ海軍はギルバート諸島の西から南東‐北西に進路をとり迅速に島や重要な基地を次々占領していくという飛び石作戦を行った。  1944年5月、この攻撃隊はニューギニア島の北西を占領しフィリピ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(124)

 しかし、日本が航空母艦からの長距離攻撃ができなくなったことで、アメリカは陸、海、空統の統一された作戦をはじめ、「島から島へ」というアメリカ軍の新たな戦略をとった。目的はその地を取り返すことではなく、東太平洋地帯に前進する船や飛行機の発着の基地にすることだった。  日本はすでに大半の商船団を失っていた。そして、軍の艦隊もアメリカ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(123)

 二人は薬局できちんとした手当をうけさせようとネナをかかえ、町へ走った。だが、薬局の者でさえどうにも手に負えない状態で、すぐにサンタカーザへ向った。結局、簡単な手術を受けなければならなくなった。指を切り開いて膿みをとり、管を入れ中を消毒する。ガーゼ、包帯などは毎日とり替える必要があるが、それはうちででもできる。手当ての最中に爪が ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(122)

 ネナは自分の立場を受け入れていた。まだ6歳だったばかりでなく、たとえ反発しようと、どうすればいいのか分らず、ただ、自分の与えられた立場に従うしかなかったのだ。すでに学校に通ってはいたが、体が小さく、農作業はできなかった。家事をしたり、家族全員に食事を作ったり、5歳のセーキ、2歳のミーチ、何ヵ月かのツーコの面倒をみた。子どもの面 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(121)

 正輝、房子夫婦には数ヵ月前の悲しい事件のあと、ごくあたりまえの家族に戻ったように映った。だが、両親にとってはあたりまえのことだが、息子のひとりにとってはあたりまえではなかった。次男のアキミツは、長男以外のその他大勢の子として扱われた。それは子どもに対する両親の言葉、態度の差にはっきり表れていた。家庭で長男はいちばん大事にされる ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(120)

 しかし、ドイツ、イタリア、日本からの移民を取り仕切るには警官の数がたりなかった。日本人のなかには自分の家にラジオを持っていて、ラジオ東京の番組を受信できる者がいた。それを通じて、アジアにおける軍事行動をキャッチすることができた。日本政府の公式発表をもとに情報を謄写版印刷して配布することで、移民たちは大いに勇気づけられていた。 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(119)

 ブラジル人やヨーロッパ系の移民が正輝や日本移民に使う「ジャポン」というよび方が、今までより政治的差別語としての意味あいを増してきた。わざと日本移民の発音をまねた「ジャポン」といういい方が皮肉、軽視、軽蔑を表していた。自分たちとはちがった人間、人種、一段下の階級に属するというほかに、ブラジルの敵という意味が含まれだしたのだ。   ...

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