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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(108)

 そして、ブラジル人やヨーロッパ系移民はこのような発音を嘲笑して、日本人を「ジャポン」と呼んだ。こうした呼び方が広まるうちに、皮肉をまじえて、なかには横柄に、命令的な話し方をするものもあった。 「ジャポン、こっちにこい!」 と横柄な口をきいた。  正輝はこうした口調に、何度も邪険に答えなかった。口げんかを避けようと自重したのだ。 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(107)

第7章 戦争と迫害  母国から遠くはなれて住む者の生活の変還、成功や物質的向上の確かな前途の見通のなさ、また、ヨーロッパ民族、ブラジル人、その他の人たちと意思を通じることの難しさが重なり、日本人移民は社会から孤立状態にとなった。  とりわけ沖縄人は多くの場所で、他の日本人からさえも時代おくれの人間とみなされたりしていた。そこで、 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(106)

 しかし、考えを述べるまでには達しなかった。その必要もなかった。樽は正輝が短期間につぎつぎ起きた事件に打ちのめされていることが、その顔つきから判断できた。つねに自分の主張を論理的に述べ、相手を同意させるあのいきいきした俊敏な目つきが、今は放心状態で、遠くをむなしく見つめている。目が曇っている。話し方も以前の確信的で迫力があったも ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(105)

 そんなある日、何年も会っていなかった叔父の樽がアララクァーラを訪れた。それほど頻繁ではなかったが、二人はそれぞれの消息を伝えるために手紙のやりとりはしていたから、あまり詳しくはないが相手の生活について知っていた。ウサグァーが殺されたときそれはセイコウ(彼は沖縄時代から甥の正輝をこう呼んでいた)の問題で、本人が何とか解決するだろ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(104)

 房子にとって永遠に思われたときがすぎ、サンタカーザ病院に着いてすぐ、息子は適切な処置を受けられるようになった。だが、すでに重態で、ほとんど息ができない状態だった。診察室のなかに連れていかれると、正輝と房子は待合室でなすべくもなく待った。よい知らせがくるかもしれないと、廊下の方を見つづけた。壁の時計の針が1分、1分進むのをうかが ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(102)

 正輝は子どもたちを引き取り、名字も保久原と変えた。それこそ避けては通れない自分の責任だと思った。ただ、ひとつ条件をつけたが、これは房子も賛成し、二人の子どもに重々しい態度で次のように伝えた。  この先、ネナとセーキは正輝夫婦の子どもとして扱う。そして、この先、母の前夫の名字嘉数を使ってはならないとはっきり言い渡した。母のために ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(101)

 死亡証明書はシルテス・デ・ロゼンゾ医師により署名され、死亡原因は「頭蓋骨の銃器の弾による傷害、殺害」とあった。死亡申請者はパステス屋のオバーの婿仲宗根源佐で、何年か前の平良マリアとの結婚のおり、正輝夫婦が仲人をした人だった。また、死亡証明書には死亡者は日本で結婚し、やもめとなった、嘉数盛二と彼女のあいだに生まれた嘉数キョーコ4 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(100)

 農場の仕事を手伝わせるために雇った玉城といっしょに内地出身の使用人がいた。その戸田つくしはどこにいるのだ? 戸田がいなくなった。銃もなくなった。彼はこの事件に関係があるのではないか?  署長は事件の山はみえたと考えた。胸の傷跡からみて、自分の胸に銃を発したとは考えられない。使われた凶器はライフルとみられ、それを自分の胸に向けて ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(99)

 ウサグァーは一言もいわず、泣き言もいわず ののしりもせず、ただあえぐのだった。子どもたちは従妹、ウサグァーの苦しげな息遣いを聞いていた。母親ほどの年齢の差はあったが、まぎれもなくマサユキ、アキミツ、ヨーチャン、そして、赤子ミーチの従姉に違いなかった。  ヨーチャンが「死にかかっているんだろうか?」と聞くと、マサユキは長男として ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(98)

第6章 銃声、そして二人… 1940年11月23日土曜日の夜、子どもたちはすでにベッドに入っていた。  そのとき、ウサグァーと雇い人が住んでいる奥の部屋から聞こえた鈍い銃声で、正輝は、飛び起きた。 「ヌウーヤガ ウレー?(何だ、これは?)」 と、ブツブツいいながら奥に走った。妻もそのあとを追った。眠っていなかった子どもたちもいそ ...

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