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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳

臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(252)

 その遅れが検事官を苛立たせた。検事が6月7日の判事に向けた書で、「遅れに疑問がある」と書いた。添付書類がついた申請書の受付日が4月26日と記録されているのに、判事が受け渡しの許可を与えたのは5月26日となっているのだ。  検事は「法律の施行を預かる検査官として、申請書の検討にあたる前に、現公証人にお伺いしたい。期限にかけては第 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(251)

 検事は、半田氏がこの地で財を成し、立派な家庭を築き上げたことなどまったく考慮しなかった。  しかし、第1裁判局のルイス・カルロッス・ダ・コスタ・メンデス判事はこの判事の意向には従わなかった。 「被告人と証人の数が多く、問題の早期解決はできない。従って、期限付きの訪日は許可されるべきだ。申請者にはブラジル国籍の子弟があり、当時居 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(250)

 多くの人々の生活を巻きこんだ臣道聯盟の裁判はいまでも尾を引いていた。  まだ何人もの被告が尋問を受けておらず、証人した者たちもよび出されていなかった。裁判官の証言召喚が被告の移転のため本人に届くのに時間がかかったからだ。  正輝がいい例だ。はじめアララクァーラに通知が行き、そのあとずいぶん経ってからサントアンドレに召喚状が届い ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(249)

 ほんの少しの暇があれば、浜辺にいける。宿直がない水曜日か木曜日の夜、サントスのヴィラ・ベルミロ球場まで足を延ばしサッカーの試合が見られるかもしれない。チームにはジット、ラエルシ、フォルミガ、ペペ、パゴゴアンなどの名選手がそろっていた。また、ペレーとかいうおかしな名前の少年が頭角を現し始めていたときでもある。いい試合のある日曜日 ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(248)

 人波に混ざり、正輝の従兄弟のヨシアキがこの儀式を見守っていた。ネナと隣にすむシッコの問題以来、二人は仲たがいして行き来が途絶えていた。ヨシアキはロンドリーナに住んでいたマサコと結婚し、スタジアムに妻と同伴できていたのだ。マサユキを兄弟同様に扱ってくれた。正輝にひどく扱われたのに、ヴォトランチン街19番地の新居でマサユキの卒業を ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(247)

 200人ちかい同じケープとユニフォームの卒業生のなかに息子を見つけた房子はそって涙を拭いた。正輝を肘でつつき、指差しながら、何かささやいた。正輝もニーチャンのいるところを指差して末っ子に教えた。両親が昂奮を抑えきれずにいるあいだ、ジュンジは卒業生が秩序正しく列をつくり、リズミカルな靴音をたでて行進するのを感激しながら眺めていた ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(246)

 家族はみな結婚式やその他の祝い事に出席するためよそ行きの服を持っていた。正輝のは紺のカシミアの背広、白いワイシャツ、結んだままにしてある縦じまのネクタイ、いつまで経っても磨り減らないラテックスの底の茶色の靴、形がくずれないようにいつも箱に入れてある緑がかったグレーのつば広帽子。  房子のはグレーと青の中間色で絹のように見えるが ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(245)

 解決しなければならない問題がいくつかあった。どうやって、競技場まで行くのか?  便乗させてもらうにしても、自由市場の仲間はトラックしかもっていない。知人や友だちで自動車をもっている人がいないのだ。競技場のようなところに、トラックでいくわけにはいかない。  陸軍将校、たとえ予備役将校でも、卒業式には軍人シンボルの剣がマドリーニァ ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(244)

 房子はポルトガル語をまず、片仮名に書き換える。このとき、無声音の子音は母音を足し、一音に、アクセントのある母音は長音に、Oの発音は口を閉ざす。音によっては語り手がかってに変える。  このような方法によって、イチオル(Ictiol)が房子の発音のようにイキチョール(ikichooru)になっても仕方がないのだった。  年下の子ど ...

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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(243)

 房子はポマードをいつもこう呼んでいた。ジュンジはこの薬が丸くて底の浅い、表にラベルがない缶に入っていることは知って、その名前に疑問をもったことはない。もう何回も買ったことがある。薬局に着くなり、声をはりあげ 「イキチョール、ひと缶ください」と言った。  売り子はよく分らない。 「なにを、ひと一缶くれといったの?」と聞き返した。 ...

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