ところが相手はこれを松太郎への加勢と勘違いしたらしい、振り上げた鞭を今度は源吉に向けてきたのだ。はじめの数回はなんとかかわしていたもののバシッとまともに一発を食らうと対抗するしかなかった。軍隊時代に習った柔道の技が無意識に働いた。相手の利き腕をつかむと、ドウッと、一本背負いが見事に決まって、相手は地面に叩き付けれた。これが二、 ...
続きを読む »勝ち組=かんばら ひろし
実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(2)
昭和の初期、アララクアラ沿線のこのコーヒー農場には数十家族の日本移民がコロノ(農作業者)として入っており、新来の源吉夫婦もその一員だった。 やがて支度が整うとエンシャーダ{鍬}を肩に、昼の弁当と水がめをぶら下げて、二人は揃って家を出た。朝の光を受けて、急速にもやが薄れ、濃い緑の草に朝露がきらきらと輝いていた。「この草取りも今日 ...
続きを読む »実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(1)
ブラジルの空は高く、青く澄んでいた。白地に赤も鮮やかに、日の丸の旗がはためいていた。 ピュ、ヒューン 澄んだ空気を切り裂いて弾丸が飛んだ。「正吉、勝次、伏せろ。窓から顔を出すじゃねえぞ」。源吉はあらためてウインチェスター連発銃を握りなおした。「やい腰抜け度も、一歩でも俺の屋敷内に踏み込んでみろ、この鉛弾をドテッ腹にぶち込んでや ...
続きを読む »