それから又、意識が途絶えた。後で知ったことだが産後の胎盤が、体から剥れず、大出血となったのだそうだ。 気が付いた時、私は、ジープの窓辺に座らされていた。きっと家族がたくさん乗り込んで、私を横にさせる空間がなかったのだろう。この時は、そんなことさえ考えることも出来なくて、朦朧としていた。 目を外に向けると、並木がピュン! ピ ...
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道のない道=村上尚子=(11)
難 産 この日も臨月の私は、焼けつくような日差しの中、切り倒してある大木を、移動させようとしていた。大木の両端に鎖の輪をつけて、その鎖へ棒を通し弟と二人で担いでいた。渾身の力で持ち上げて、数歩行くと急に腹痛がして、しゃがみ込んでしまった。抱え込まれて室の中に寝かされた私に、母は落ち着いた物腰である。 「陣痛が、始まっ ...
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ある日のこと。 保明が、裏の原始林へ狩のため入っていった。彼は二時間くらいして戻って来た。弟の手には獲物は無く、ぐったりとしたタロが抱き抱えられている。タロの息はもうなかった…… タロとは、家で飼っていた大きな犬の名前である。おとなしい目をして、みんなに遠慮勝ちに付いて回っていた。うす茶色の短い毛の彼は、この日も弟に寄り添っ ...
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なので、その辺の男でも大抵三人も、女を持っているとのことである。 話は戻る。 その店での買い物は、ツケが利く。経営者の、ジョンソンが肩代わりをしている。二年後に、私たちが受け取るはずの、仕事賃から差し引いて、精算されることになっている。なので、現金の顔も見たことがない。 この食料の買い入れは、馬に乗って行く。これは弟の受 ...
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この半年間、忘れようとて忘れられない母の悲鳴を、又聞いてしまった。とっさに私は、エンシャーダを投げ捨てた。そして走った。そのただならない行動に、茂夫は異常を感じたらしく、自分も手からエンシャーダを放して、一緒に走った。気は急くが、家まではあまりにも距離がある。たどり着いた時も、母の悲鳴は続いていた。 父が家の裏の壁に母を押し ...
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わき道にそれるが、とうもろこしでの思い出がある。 その時から二年過ぎた頃である。弟は独学でスペイン語が何とか解りはじめていた。なので、こんな人里はなれた所にも、細々とした情報は入ってきていた。どうも隣の四キロ先にある所に、人殺しが住んでいるという。パラグアイ人の男で、今警察に追われ、そこへ逃げ込んでいるとのこと。 当時のパ ...
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あの愕きと恐ろしさは忘れられない。犬と全く違うのはいいとして、あんなものが私の体の中に入るはずがない。恐怖と緊張に目をつぶった。その時である。深刻な茂夫の声がした。 「おかしいなあ……ここだと思うけんど……」 その声で、やはり彼もそちらの知識は無いらしいことが分かった。そうとうな時間が経って無事、初夜は終わった。 その日を ...
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ところで、この地区には監督という者がいる。月に一度くらい馬に乗って、仕事の進み具合を見にくる。やかましい小言は何も言わずに、十五分もいたら帰って行く。 父に期待する者はいない。だれも口にこそ出さないが、この家の中が平穏であることだけを願っていた。 そんな父が珍しく、せかせかと庭の土をいじっている。見ると、日本にあったと同じ ...
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その頃、茂夫とは、軽く付き合ってはいた。けれども、結婚など考えてもいなかった。当時の多くの者は、父親の意見には、従わなければならなかった。私の父であれば、絶対服従である。それでも強く抵抗した。 「いやばい(いやです)」懸命に言い続けた。父に言い含められている母は、深刻になり、私を説得した。 「お父さんが、どうしてもち言うき、言 ...
続きを読む »道のない道=村上尚子=(3)
公園は少し歩いたところだった。そして公園にある建物の陰に私を連れて行った。男は、静かに私を抱き寄せて、接吻した。生まれて始めての接吻は、気持ちが悪い。そのうち、抱きしめた片方の手を、私の胸に差し入れてきた。いつまでも接吻をしたまま、私の乳をもみ始めたのだ。 「男は、こんなことをするの?」 と驚きながらも、逃げなければいけない ...
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