道のない道=村上尚子

  • 道のない道=村上尚子=(12)

     それから又、意識が途絶えた。後で知ったことだが産後の胎盤が、体から剥れず、大出血となったのだそうだ。  気が付いた時、私は、ジープの窓辺に座らされていた。きっと家族がたくさん乗り込んで、私を横にさせ

  • 道のない道=村上尚子=(11)

         難 産  この日も臨月の私は、焼けつくような日差しの中、切り倒してある大木を、移動させようとしていた。大木の両端に鎖の輪をつけて、その鎖へ棒を通し弟と二人で担いでいた。渾身の力で持ち上げて、

  • 道のない道=村上尚子=(10)

     ある日のこと。  保明が、裏の原始林へ狩のため入っていった。彼は二時間くらいして戻って来た。弟の手には獲物は無く、ぐったりとしたタロが抱き抱えられている。タロの息はもうなかった…… タロとは、家で飼

  • 道のない道=村上尚子=(9)

     なので、その辺の男でも大抵三人も、女を持っているとのことである。  話は戻る。  その店での買い物は、ツケが利く。経営者の、ジョンソンが肩代わりをしている。二年後に、私たちが受け取るはずの、仕事賃か

  • 道のない道=村上尚子=(8)

     この半年間、忘れようとて忘れられない母の悲鳴を、又聞いてしまった。とっさに私は、エンシャーダを投げ捨てた。そして走った。そのただならない行動に、茂夫は異常を感じたらしく、自分も手からエンシャーダを放

  • 道のない道=村上尚子=(7)

     わき道にそれるが、とうもろこしでの思い出がある。  その時から二年過ぎた頃である。弟は独学でスペイン語が何とか解りはじめていた。なので、こんな人里はなれた所にも、細々とした情報は入ってきていた。どう

  • 道のない道=村上尚子=(6)

     あの愕きと恐ろしさは忘れられない。犬と全く違うのはいいとして、あんなものが私の体の中に入るはずがない。恐怖と緊張に目をつぶった。その時である。深刻な茂夫の声がした。 「おかしいなあ……ここだと思うけ

  • 道のない道=村上尚子=(5)

     ところで、この地区には監督という者がいる。月に一度くらい馬に乗って、仕事の進み具合を見にくる。やかましい小言は何も言わずに、十五分もいたら帰って行く。  父に期待する者はいない。だれも口にこそ出さな

  • 道のない道=村上尚子=(4)

     その頃、茂夫とは、軽く付き合ってはいた。けれども、結婚など考えてもいなかった。当時の多くの者は、父親の意見には、従わなければならなかった。私の父であれば、絶対服従である。それでも強く抵抗した。 「い

  • 道のない道=村上尚子=(3)

     公園は少し歩いたところだった。そして公園にある建物の陰に私を連れて行った。男は、静かに私を抱き寄せて、接吻した。生まれて始めての接吻は、気持ちが悪い。そのうち、抱きしめた片方の手を、私の胸に差し入れ

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