耕地では、その地方で最も盛んなバナナと米が栽培されていました。父は早起きでいつも一番先に起床していました。雇用主が毎朝、そこで暮らし、そこで働いている方々全員に朝食の準備をしていたので、父は毎朝まだ暗いうちから薪の調達に取り掛かったのでした。 明け方の澄んだ空気に漂う薪の煙に入り混じった調理の香りがどれほど素晴らしかったこと ...
続きを読む »連載小説
安慶名栄子著『篤成』(5)
第2章 夢のブラジル 船内での活動は豊富で、若い人たちの間では相撲や柔道、腕相撲などが人気を集めていました。数年後、それらの娯楽、特に柔道がブラジルのみならず、世界でも人気のスポーツになり、オリンピックの正式種目にまでなるとは彼らには知るすべもなかったでしょう。 父は身長170センチで当時としては身体が大きく、頑丈な農夫だ ...
続きを読む »安慶名栄子著『篤成』(4)
那覇港では、家族、親戚、友人達がそれぞれ別れのテープをしっかり握っていました。汽笛が鳴った。もはや別れは避けられないでしょう。大規模な「鎌倉丸」がゆっくりと水面を滑り出し、段々と遠ざかっていくと同時にテープが一本ずつ切れていきました。別れに胸が引き裂かれるように、次々と脳裏をよぎる悲しみのほんの一部や込み上げる恋しさ。桟橋に残 ...
続きを読む »安慶名栄子著『篤成』(3)
私は、安慶名篤成と同様に1世移民としてそれぞれの苦難を生きてこられた皆さんに本書の一読をお薦めしたい。 またブラジル生まれの新しい世代の皆さんにもポルトガル語版で是非とも一読されますようお薦めしたい。 一世移民の苦難を共に生きてきた子弟が書き綴った本書は、どんな困難の中にあっても家族の絆は如何にあるべきかを問い、そして人は ...
続きを読む »安慶名栄子著『篤成』(2)
私は安慶名栄子から、この本を沖縄の親戚の皆さんに父の足跡を知って頂きたく日本語に翻訳したい、という相談を受け、早速宮原ジャネ朋代にお願いして出来上がった翻訳文を一気に読みました。いや、引き込まれるように読み続けずにはおれませんでした。読み終わって後も感動の波が私の胸の中に波打っていました。 その名も知らない故安慶名篤成の足跡 ...
続きを読む »安慶名栄子著『篤成』(1)
《はじめに》 メロ・クラレッテ 想像もしなかった道を進み、ついに実現されようとする夢。しかし、夢があるところには希望があり、希望がある者は諦めることはない。いばらの道を辿りつつも雄々しく、嵐に立ち向かい、人生のあらゆる困難を乗り越え、その一つ一つから一層力強くなって立ち上がった英雄、父親という強力な人物が辿った有意義な人生の道 ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第152話
マルコスのように、このブラジルしか知らない人にとっては、なかなか想像しにくいことかもしれないけど、国を移す、移民するということは、大きな世界が開けると同時に、後にして来た国から脱却する痛みというものが伴うの。それは表面的にはなかなか見えない分、重いものがあるけど、しかしそれは、移民にとって避けて通れない道でもあるわね。 後に ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第151話
それはたとえば、日本から来た農業移民の人たちが、この植民地のようにまず自分たちだけで固まって、同じ所を開拓して農場を造っていくということにも似ているのじゃないかしら。彼らにとっては、その方が安心だし、同じ国から来ている気心の知れた人たちと一緒に仕事をすれば、間違いないという考えがあるから、結局、こういう形のものが出来上がってい ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第150話
それは、以前にマルコスも指摘したように、このブラジルでのカトリック教会にあるキリスト像とは、変わるはずはないのだけど、現実にはしかし、そこには厳然とした違いがあるわけね。 こんなことを言ったらおかしいかもしれないけど、私たち隠れキリシタンが持つキリスト像は、他の教会のものとは違うということね。同じキリスト像がなぜ違うのだと聞か ...
続きを読む »中島宏著『クリスト・レイ』第149話
逆境の嵐の中で、自分の進路を変えることなく生き続けるということは、並大抵の精神力ではできないことでしょう。もちろん、強風に応じてそれなりの対応を心がけながら凌がねばならず、常に一定方向に進んでいけばいいというものでもないでしょうし。その辺りの柔軟性というか、駆け引きの呼吸も分かっていないと、ちょっとした隙から一度に強風に煽られ ...
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