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連載小説

花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=15

 「いま叔父さんから歓迎会だと聞きました。歓迎会で結婚指輪を貰うのもおかしいし、考えなくてはいけない結婚だと気が付きましたので、その指輪はお断りいたします」 結婚を断って言葉も解らない国で、どう生きるかなどということは頭に浮かんで来なかったし、所持金のことにも思いは至らなかった。ただこの結婚を断らなくてはならないと、それだけが思 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=14

 大阪の叔母が、叔父の言いかけた言葉を止めたのは、このことだったのだと目の当たりにしたのである。 港からカミノ・デル・フォルチンという通りまで、どれ程の距離かいまも知らないが、街から出て車は草原の中の道を走った。 叔父の家に着くと、三ヶ月前に強風が吹きユーカリの大樹が倒れて、住んでいた家は真っ二つに割れたとのことで、その大樹を指 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=13

 ブエノスの街のどこへ連れて行かれたのかは分らないが、裏町の狭い石畳道の両側に商店の並んだゴミゴミとした所だったこと、その店舗裏の暗いじめじめしたイメージが今でも思い出される。 海抜のほとんどないブエノス・アイレスは「湿気が八十パーセントよ」とウルグアイに着いてから間もなく聞いた。それが本当かどうかは分からないが、晴れた日が続い ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=12

 見える人にはこの性格は分かったであろうが、寂しさゆえにか人を疑う事を知らず、単純であり,甘えたがり屋だったと、今はその頃の自分の心の姿を言えるが、まだ若い私にこんな自分の姿が見えるはずもなく、実に無防備のまま生きていたのだった。 第五章 赤い靴 ② 実母の妹である大阪の叔母が話題として、 「ウルグアイの一志ちゃんの嫁さんを探し ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=11

 それから一年ほどしたある日、この叔母の家を訪ねると、パラグアイからウルグアイに再移住したというもう一人の叔母で、実母のすぐ下の妹一家の話が出て、「ああ、あの中学の時の南米へ行ったおばさんの一家か」と思い出したのだった。  十七歳の時、養母がおそらく六十歳くらいで逝き、二十一歳の時、養父が八十四歳で逝き、私はたった独りで生きてい ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=10

 出征間際でもあり、その頃は周囲の人たちもまたそれを当然のこととしたのだろう。そして父親なる男の出征後に私が生まれたというわけである。 「農繁期に働ける者がおらん、男が出征して居ない家には、嬰児は大変手のかかる困った存在でしかなかったからね、仕方なく生まれてすぐ養女に出したのよ」と聞かされたのは十才の頃だったろうか。 十代の時も ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=9

 ダッコちゃんにかぎらず、写真と書類による見合い結婚には、いくらかの不都合があった。花婿側は騙すつもりは毛頭なく、ただ写真の背景として良い場所をえらび写したに違いないが、成功者の先輩の家とかパトロンの家や庭を背景にした写真を送り、花嫁側はそれを花婿の家だと思いこんでしまったことも、笑うに笑えない話だが現実にあったようである。 「 ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=8

 「やっぱり外国暮らしは違うね、日本じゃ粗茶ですが、だよ」と、みんなで目をまるくしたが、この言葉は、その後ずうっと私の中に生きつづけ、素直にそれを言える暮らし方を今はしている。 サントス港で人も積荷も降ろした船は、がらんとしたまま次の寄港地ブエノス・アイレスに向かった。事業団の監督官が残り、外務省の人はサントスで下船した。船内に ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=7

 横浜からの花嫁以外の、他の乗船者たちともつながりはなく、ほんの顔見知り程度で、四十五日のあいだ同じ釜の飯を食べた仲でありながら他人のような感じで過ごした。顔さえ思い出さないのではどうしょうもないが、めぐりあい同船者ということで何となく、二、三人と親しくし始めたのは、上陸して数年経ってからのことである。  さらに、同じ花嫁移民と ...

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花嫁移民=海を渡った花嫁たちは=滝 友梨香=6

 「チリ辺りへ移住し直したいわ、海産物が豊富でしょ、主人の仕事とは別にお鮨屋でもしたら流行るでしょ」と私は訪問先のお宅で言い、やはりこのお宅を訪問し、同席していた七十歳代の鋭い目の老人がムッとしたように、 「なぜっ、日本を嫌がる」と言った。なんだか変な老人だと感じたが、 「たぶん私は輸出向きなのよ、ブラジルが駄目なら、日本に帰る ...

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