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連載小説

連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=20

 兄貴も20センチ位のを1匹釣っていたが、為仁さんの話が効きすぎて足元に気をとられ、釣りどころではなかったようようだ。それから一晩中焚き火にほてりながら皆が帰るのを待っていたが、よほど面白いのか、なかなか帰ってこない。待つことしばし、呼び声がするので川辺に下りていった。何と、大小30匹位の魚の山。大した腕前だ。兄貴が6、7匹釣っ ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=18

 来たと思ったら、鶏の羽根を方々に10本位立て、1時間ほどしたら1本1本を注意深く見て、水分がついている羽根を探し回り、その場所に水脈があると教えてくれた。家から10メートル位の場所にあったので、そこを掘ると言う。場所としては申し分なく、何メートルぐらいで水が出るかと聞いたら、10から12~3メートル位で確かに出るはずだと、そし ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=16

 ブラジルに着いた当時は、それこそひどく泣きたいほどだったのを覚えているが、果物だけは良く食べられた。荒山に住んだ2年間は時々買ってくるバナナを宝物の様に食べた。今からはもう少し頻繁に買って食べられそうだ。勿論充分な営農資金も無く、青田借での初年なのだが、それ位の贅沢は許されそうだ。 ムダンサのカミニョンは走り続ける。パストの中 ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=15

 収穫は無事に終わった。約1千アローバを越したそうで、貰い分は500アローバ余。金額にしてどの位になるのかわからなかったが、借金を引かれてもかなりの金額が残るはずだと、おやじと兄貴は計算した。ブラジルに来て2年と8カ月で、曲りなりにも独立が出来るとは、おやじと兄貴の采配と神仏の御引立て、そして耕主三坂さん、大塚久の助さんの助力の ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=14

 新開地の山にも慣れ、新しい棉作に向かう心が募る。山が良く焼けていたら、今頃は棉も良く出来ていたのかも知れないが、まだまだ借金の返済がやっとだったのである。小物を植えたお陰で、生活費の半分位は入ってきた現金で賄う事もでき始めているらしい。ひょっとしたら、これから借金せずに済むかも知れない。実際にお金が入った事は大きな強みだった。 ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=13

 寝台も4本の土台を打ち込み、ヤシの4つ割の上に蒲の干したものを敷いて寝るようになったのだが、王様にでもなった気分。宮殿は出来た。あとは便所と風呂と井戸が残ったが、水は当分、小川から汲んで来て使う。風呂はドラム缶と決めてある。今まではお湯を沸かし行水していたが、7月、8月は寒い目にあった。今度はドラム缶を使うので極楽だ。やっと便 ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=12

 労働者側から見たら、充分な食糧も配給して貰えず、食券で指定の売店でしか物が手に入らないというのも、耕主の専横ではなく政府の政策によるものであり、耕主も労働者も双方被害者であるというのが当時のブラジルの姿であったらしい。 1930年代からの移民の語りに依れば、バウルーとサンマノエルの中間の原野に大きい倉庫があり、広大な地域に鉄條 ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=11

 コーヒーの採集は大変な仕事なのだそうだ。この時期になると、朝早くは霧がかかり、露が多くて下半身はびっしょぬれる。うっすらと霜も降りる。青い実は落ちにくく、手は痛く、血がにじみ出る毎日だ。それが6月の末ごろまで続くらしい。叉コーヒーの木には蜂の巣や毛虫も多く、毛虫に触れたら火に焼かれたように肌が痛み、その日一日中苦しむそうだ。ま ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=10

 その夜は思わぬご馳走に、皆満腹で早くも眠くなったらしく、ゆっくり話の続きを聞きたい母は、急いで湯を沸かすと子供たちを行水させ寝付かせた。「文しゃん、1カ月ぶりに家に帰って来たが、もう立派になった様だね」と言って母は褒めて呉れた。 自分もやはり色々と考えさせられて、心が広くなったと感じた事は確かだ。人間としては成長したのでは、と ...

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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=9

 ジャルジネイラが着いたのは午後4時頃だった。久さんは早く帰りたいのだろう。4時過ぎでないと便が無いので、それまでに鶏を箱から出して水を飲ませねばとも話していたが、箱の中で騒いでいる鶏は出したら逃げるだろうと思い、箱から出せず、餌もないが1日位では死なないからと、そうこうする内にもう時間だと久さんは帰ると言い、荷物があるので用心 ...

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