どうやら60キロ位まで腕は上がったが、それ以上にはならなかった。でも人並ほどにはなれたので手伝いに来て恥をかかずに済んだ。久さん、忠男さん、智さん信一さん等皆と一緒に棉を摘み、日曜日の休みには小川に魚釣りに行ったりして遊び楽しい日々を送った。 すぐに明日は帰るという日が来た。大塚さん宅では丸い釜でパンを焼き、その後で鶏を2羽丸 ...
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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=7
病気になったら働けぬ。仕事が出来なければ耕主の得にはならぬ、とその道理を説いて借して貰えれば、双方の得となる。体力の限界は何としても避けなければならない。耕地を離れ、大塚さんの手伝いに来てはじめて気が付いた。なぜもっと早く気付かなかったのだろう。そうと気が付いたら何だか元気が出たように思える。 もう、ここに来て何日になるだろう ...
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「行きはよいよい、帰りは恐い」のごとく、来る時には初めて耕地の外に出て、嬉しさと物珍しさで気が付かなかったのだが、所々牧場の中を通って来たらしく「気の荒い牛に追われて、息絶え絶えに逃げ、恐かった」の話を思い出し、急に恐くなった。 遠い丘の上の牛の群れを尻目に、1リットルの酒のビンを持ち直すと急ぎ足で家に帰った。家でも初めて使い ...
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ただ一つ困ったのは食べ物だ。子供の自分でさえ困ったと感じていたのに、両親はどんなに辛かったのだろう。米は有るとはいえ、屑米でパラパラしてまずい。日本にいたときは、白米は自家作、野菜も有り余るほどで、食べ物の不自由なく暮らしていただけにかなり辛かった。もう2カ月も過ぎたが、働くだけで金は見たことも聞いた事もなく、満足な食べ物もな ...
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私たちは早速バナナやみかんに手を出し、さっきまでの疲れと気落ちもどこへやら、腹いっぱいにご馳走になり、いつの間にか荷物にもたれかかって眠ってしまった。肌寒さを感じ目が覚めたとき、「コケコッコー」と一番鶏の鬨の声。ブラジルにも鶏が居て、日本の鶏と同じ様にうたっているのが嬉しかった。早く外に出てみたかったが、ブラジルには毒蛇がたく ...
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さあ着いた。此処がドゥアルチーナ、我が家の再出発点だ。少年ながらも夢はある。家も仕事も全てが新しいブラジルでの生活が始まるのだと思うと何となく勇気がわいてくる。 駅に着くと三坂耕地から貨物自動車で、耕主の甥の義男さんという青年と監督さんの二人で出迎えに来て下さった。同じ汽車で来た荷物を積み込み、同じ荷台に乗り込んでドゥアルチー ...
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窓ガラスに触ってみたら、あるはずのガラスがない。道理で煙が入ってくるはずだ。大半のガラスは壊れていてなかった。わざわざ出迎えに来てくれた大先輩の大塚さんによれば、ブラジルでは高い所から悪ガキ共が汽車を目掛けて石を投げ、窓ガラスを壊してしまうのだそうで、汽車の窓は大半が割れていた。 また、日本の汽車とちがって、ブラジルでは薪を焚 ...
続きを読む »連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=1
第一節 運命 航海最後の夜――。もう暫くしたらブラジルの大陸が見えるだろうという人々の声が聞こえる。2カ月近くの長く単調な航海にうんざりしていた上に、目的地ブラジルを見たいという好奇心。それにブラジルでは真夏。船室からのがれ甲板で涼風に吹かれたいとの思いは、誰しも同じ。いつもなら子供が甲板に出る事は禁じられているのだが、明日はサ ...
続きを読む »連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(174)=完結
それから三年後、ローランジアで黒澤和尚から厳しい密教の指南を受け、印可状(認可証書)を授かった中嶋和尚は、サンパウロの東洋街の東の端に小さな『聖真寺』(架空)を創建、新しい宗派『聖宗』(架空)を開いた。 『ポルケ・シン』食堂を逃げ出し、修行に出た『聖観音』は、誤ってサンパウロ市の北を流れるチエテ河に落ち、漂流しているところをサ ...
続きを読む »連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(173)
「あの世で井手善一和尚が『日本の水』旅行プランを企画され、たくさんの先駆者の仏が応募しているのをイマジネーションしました。井手善一和尚は仏界でも色々なアイデアで活躍なされているようです」「ええっ!中嶋さん! 本当ですか? その旅行を取材しなくては!」 西谷が、「皆さん、この辺でお茶会を終わらせましょう。皆さんご苦労さまでした。仏 ...
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