ホーム | 文芸 | 連載小説 (ページ 149)

連載小説

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(30)

ニッケイ新聞 2013年10月24日 「仏壇です。大仏堂で特別安くしてくれました。よろしいですか?」 ジョージは、今更、仏壇を外させる勇気はなかった。 「かまいません」そう言ったジョージが、 「中嶋さん、ちょっと、お願いがあるんですが」 「どうぞ」 「実は、拝んでもらいたいものがあるんです」 「なにをですか?」 「刑事時代の亡く ...

続きを読む »

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(29)

ニッケイ新聞 2013年10月23日  中嶋和尚は、この法要の謹行により、お『釈迦』さま直々の免状と不思議な力を授かった。 「中嶋和尚、ご苦労さまでした。お茶を用意しております。こちらヘどうぞ」西谷の顔が前よりも明るくなっていた。  法要を始める前よりも頬がくぼんだ中嶋和尚だが、一回り大きくなった様に、西谷は思った。 「不思議な ...

続きを読む »

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(28)

ニッケイ新聞 2013年10月22日  中嶋はジョージのアパートを出ると直ぐに方向が分からなくなった。数珠を左手に掛け、立ち止まり、目を瞑ると今まで経験した事がない自己暗示の幻覚が現れ、聴覚や嗅覚も驚くほど鋭くなった。  中嶋は、科学万能主義者では絶対に説明出来ない不思議な力で、左方向から漂ってくる僅かな線香の匂いを嗅ぎ取った。 ...

続きを読む »

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(27)

ニッケイ新聞 2013年10月19日  アパートに戻ると、中嶋は昨夜洗った法衣にアイロンをかけ、身に着けると数珠を手にした。 「中嶋さん、それは?」 「数珠です」 「カトリコ(カトリック教徒)も『ロザリオ』と云って同じ物を使いますよ」 「そうですか。これは私の一番大事な仏具です」 「しかし、長いなー」 「珠は一〇八個あります。半 ...

続きを読む »

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(26)

ニッケイ新聞 2013年10月18日 「そうなんですか」 「それで、これから中嶋さんをどうすればいいか・・・」 「残念でしたね。せっかくブラジルまで来られたのに・・・、それで、中嶋さんはいつ日本へ戻られるのですか?」西谷はそれが当然だと云う顔で言った。  中嶋は突然両手を合わせ一般的な経文を読誦(どくじゅ=そらで読む)し始めた。 ...

続きを読む »

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(25)

ニッケイ新聞 2013年10月17日  宿利は驚いた顔で、 「伝道和尚はとっくに日本へ帰っておられますよ」又、ノートを確認しながら、「一九九〇年には日本で洞山寺(架空の寺)の住職になられて・・・」顔をしかめ、首を捻って「もう他界されておられますね・・・」  その最後の言葉にジョージは宿利和尚以上に顔をしかめ、 「えっ! 日本で亡 ...

続きを読む »

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(24)

ニッケイ新聞 2013年10月16日  ひと摘みしたジョージが、 「この材料は?」 「冷蔵庫にありました」 「えっ、本当ですか。料理上手の女にふられてから、ずっと買って無いので」 「そうでしたか、だからほとんどが期限切れでした。ですが、もったいないと思い、充分吟味してから使いましたのでご心配なく」 「料理、おじょーずですね」 「 ...

続きを読む »

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(23)

ニッケイ新聞 2013年10月15日  午前中に仕事を終わらせ、後を頼りのカヨ子さんに任せ、ジョージは余りにも無責任と云うか、無謀な中嶋に怒りをおぼえアパートに戻った。 「朝のコーヒーまで用意していただいき恐縮です」 「おっ、アパートがきれいになって、中嶋さんが!?」  ジョージは、見違えるようにピッカピカに掃除されたアパートを ...

続きを読む »

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(22)

ニッケイ新聞 2013年10月12日  ジョージが事務所に着くと、彼宛の伝言があった。 『(ローランジアのイシズカさんとれんらくがとれました。TEL:三七五四、六○六一のニシタニにレンラクしてください)』カヨ子 早速、ジョージは電話した。 「西谷副会長さんお願いします。ジョージと申します」 【少々お待ち下さい】 待構えていた様に ...

続きを読む »

連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(21)

ニッケイ新聞 2013年10月11日  中嶋は開かれたドアの中に早朝の薄明かりに白く輝く『色白にして法衣を付けずして天衣をまとい十五のむすめの如く』と『大吉祥天女念誦(ねんじゅ)法』に記される『吉祥天』の化身を見た。その化身はドアを閉めると真直ぐ幸せホルモンで満たされた中嶋のベッドに入って来た。 「(まあ、頼もしい〜)」そう言っ ...

続きを読む »