ニッケイ新聞 2013年5月25日 祖父の言った言葉にジョゼは素早く反応した。 「それは日本の俳句とは違うさ」 ブラジルで流行している俳句とはいったいどんなものなのか。季語を詠み込まなければならない俳句に、四季のない国で季語はどうなっているのだろうか。 「日本の四季を知らなくても、一世から聞いた日本の姿を想像することはできる ...
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連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第81回
ニッケイ新聞 2013年5月24日 「今から思えばかわいそうなことをしたと思うが、あの頃は日本に帰ることしか念頭になかった。自分の娘をブラジルに置き去りにすることもできないし、肌の黒い孫を日本に連れ帰るなんて、想像しただけでも恐ろしくなった」 野村の本音なのだろう。 野村だけではなくすべての移民の意識を変えたのは、日本の敗戦 ...
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ニッケイ新聞 2013年5月23日 「日本に帰国する時に、黒人の嫁や混血児を連れて帰るなんてできるはずがない。それに子供がガイジンと結婚すれば、孫に流れる日本人の血は二分の一になる。孫がガイジンと結婚すれば三代目の血は四分の一になってしまう。血の純血が守れないということは民族的自殺に等しい。混血結婚を繰り返せば、大和民族の血がい ...
続きを読む »連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第79回
ニッケイ新聞 2013年5月22日 「二、三日姿が見えないと、他の移民が訪ねていくと、両親はすでに死んでいて、遺体に湧いたウジで子供が遊んでいた。遺体は腐乱が激しくどうすることもできず、子供を引きはなして、家ごと燃やしたケースもあったくらいだ」 「野村さんも日本人移住地に入られたのですか」 「わしらはコーヒー栽培にすぐに見切りを ...
続きを読む »連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第78回
ニッケイ新聞 2013年5月21日 サンパウロ近郊なら、その日の夕方までには着いたが、遠距離になると二、三日後に店頭に並ぶことになる。野村は農業を離れると、雑貨店を経営しその店で新聞を売っていた。 外は日が高くなるに連れて、気温は急激に上昇した。児玉はマリーナと一緒に野村の家で朝食を摂ることになった。近くのパダリア(パン屋) ...
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ニッケイ新聞 2013年5月18日 三時間ほど走り、ドライブインに入り休憩した。昼間の熱気がまだ残り、車を降りた瞬間汗が噴き出してくる。次々に長距離バスも入ってくる。ドライブインは二十四時間営業で、ボリュームをいっぱいに上げたスピーカーからサンバが流れていた。 「もうすぐカーニバルよ」マリーナが言った。 毎年二月末にカーニバ ...
続きを読む »連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第76回
ニッケイ新聞 2013年5月17日 そのアミノ布団店の入口横にある螺旋階段を上がった二階に受付があった。学校の名前はエスコーラ(学校)・デ・ソロバンで、フロアをいくつかに区切り教室として使っているのか、講義する声が聞こえてきた。昼間は算盤を習いにくる二世、三世の子供たちで教室は埋まるが、夜間は日本語を学ぶ日系人や児玉のような新 ...
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ニッケイ新聞 2013年5月16日 マリーナも現在の日本の様子を日本語で質問してきた。 「広島までバスで何時間くらいかかりますか」 「天草はきれいな島ですか」 マリーナの関心は東京よりも祖父の故郷広島、祖母の生まれた天草にあった。児玉は広島には二度ほど訪れたことはあったが、天草どころか九州にさえ行ったことはなかった。サンパウ ...
続きを読む »連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第74回
ニッケイ新聞 2013年5月15日 「ブラジルの小学校しか出ていない私が教えるなんて無理。それは学校の先生に相談してもらわないと……」 「いや、確かに先生が教えてくれるポルトガル語は文法に則っているけど、解説の日本語が下手で実は何を言っているのかわからない時があるんだ」 「私の日本語はもっと下手よ」 「いや、マリーナの日本語は方 ...
続きを読む »連載小説=移り住みし者たち=麻野 涼=第73回
ニッケイ新聞 2013年5月14日 川添はブラジルが無限の可能性を秘めた国であることを強調した。児玉は川添の説明を丹念にメモしながら聞いた。三十分ほど川添の講義を聞いた後、児玉は広報課を出た。階段を降りたところで児玉はマリーナに会った。彼女も児玉に気づいたらしく挨拶してきた。 「ボンジア」 「マリーナは組合で働いているの」 「 ...
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